うたぷり

□あなたに触れたい
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マスカレード・ミラージュの舞台稽古は公演に向けて、大詰めを迎えている。

歌撮りや舞台稽古で忙しく、春歌とはなかなかゆっくり会えていない。しかも、舞台はクリスマスも関係なく公演される。アイドルにクリスマスをゆっくりする時間なんかないけど、普通は家族や恋人と過ごす事が多いみたいだけど、ボクと春歌には無理みたいだ。

普段から恋人同士が一緒に過ごすようなイベントはできていないし、春歌は不満に思ったりしているかもしれない。だからと言ってアイドルを辞めるつもりもないし、春歌の歌も歌い続けたいとも思っている。自分がこんなに欲張りだなんて知らなかった。



「ア・イ・ア・イ〜☆」

舞台稽古が終わった所で脳天気にレイジが寄ってくる。

「ちょ、ちょっと待ってよ!お兄さんとお話しようよ〜」

無視して楽屋に帰ろうとしたら、腕を掴まれた。

「レイジ、腕離して。以上、会話終了。じゃあね」

「いやいやいやいや〜。待って!もうちょっと!」

「なに?用件は簡潔にまとめて話してよね」

「アイアイが冷たいよ〜。しくしく」

付き合ってられないね。帰ろ。

「いやいや!だから待って!」

「わ〜!藍ちゃんお疲れ様です〜!僕も一緒にお話していいですか??」

「…2人していったいなんなの?」

2人はニコニコしてボクの両脇を抱えて歩き出す。

「ちょ?!なに?!」

「まぁまぁ。一緒にご飯でも食べながらお話しましょ!」

「わぁ〜楽しそうです〜」

返事を聞く前に2人に無理やりレストランに連れ出された。

電力消費するからあまりご飯とか食べたくないんだけど…この2人にかかれば何を言っても無駄だ。



「あっ!皆さんお疲れ様です!!」

案内された席には、なぜか春歌の姿。

「後輩ちゃんもお疲れチャン☆遅くなってごめんね!」

「いえ、私もさっき来たばかりですので…」

そう遠慮がちに話す春歌と目があった。

「レイジ、説明して」

「アイアイ〜目が笑ってないよ〜」

「当たり前でしょ」

突然連れ出された先に春歌がいれば驚く。しかも、レイジと待ち合わせをしていたようだし。

「最近、眉間にシワよせて考えてる事多かったからさ☆後輩ちゃん呼べば元気になるかなぁ〜て」

「余計なお節介はノーサンキューだよ」

「ねぇねぇ、春ちゃん!美味しそうな料理ばかりですね!わぁ!いただきま〜す」

ナツキの空気の読めなさも相変わらずだし。

「アイアイも!まずは食べよ!さ、後輩ちゃんも☆」

「は、はい」

レイジに説明を求めたのが間違いだったのかも。まぁ、ナツキは論外だけど。




「あ、あの美風先輩。もうすぐ舞台公演ですね!お稽古とかはどうですか?」

レイジとナツキが騒ぎながら食べてる横で春歌が話しかけてきた

「大変だけど、やりがいはあるよ」

「そうですか…。あっ、公演日は見に行きますね!」

「うん、楽しみにしてて」

「は、はい…」

あれ?いつも通りの会話のはずなのに春歌に元気がない。不思議に思っていると、「ちょっと失礼しますね」と言って春歌が席を立って出て行く。

「ちょ!アイアイ!追いかけなきゃ!!」

「?」

「後輩ちゃん、声震えてたよ!」

レイジに無理やり席から押し出されて春歌の姿を探す。






洗面所の近くで春歌を見つけた。

「何してるの?」

「みっ美風先輩!なんでもないです、あの、ちょっと化粧直しを…」

振り向かないで話す春歌の肩が少し震えていた。

「春歌、こっち向いて」

首を横に降るだけで、振り向いてはくれない。何があったのかは分からないけど、振り向いてくれないなら実力行使しかないので春歌の腕を取って引き寄せた。

「どうして泣いてるの?」

春歌の瞳からは大粒の涙が溢れていた。

「ち、違うんです。なんでもありません、大丈夫です」

「その顔で、どう大丈夫なのか説明してくれる?」

「す、すみません…」

下を向く春歌の両頬を包んで目線を合わせる。

「ほら、顔上げて。ボクは君の何?」

「…パートナーです…」

「恋人でしょ」

今度は顔を真っ赤にした春歌の頬を軽く摘まんで引っ張る。

「い、いひゃいれす…」

「そう、じゃあ、ちゃんと説明してくれる?」




しばらくの沈黙の後、春歌がゆっくりと話し出した。

「今日、先輩に会えて嬉しくて…でも、しばらく忙しくて…また会えなくなるなって思って…」

語尾が震えて、また涙がこぼれ落ちた。

「こんなワガママな気持ちを知られたら、嫌われちゃうって…」

春歌は普段から我慢しててくれたんだね。

「気付かなくてごめんね。ボクも寂しかったよ」

「…先輩もですか…?」

なに、その不思議そうな顔。

「当たり前でしょ。ボクだって恋人に会えないのは寂しいって思うよ」

また赤くなる。本当にキミの顔は忙しいね。見てて飽きないけど。

「ねぇ、春歌。寂しいならちゃんと寂しいって隠さないで言って」

お互い会いたい気持ちは同じなんだ。だから、こんなのワガママなんかじゃない。

「…はい…」

春歌が柔らかい笑みを浮かべる。触れていた頬から手を離して抱きしめる。久しぶりの春歌の温もりに安堵した。





「…もう少し一緒にいたいんだけど、とりあえず帰ろうか」

見つめて問いかけると「はい!」と元気な声が返ってくる。まだ、もう少しキミに触れていたいんだ。

そして、しばらく会えなかった分を埋めるように、しっかり手を繋いで帰った。





キミと居ると初めての感情ばかりで戸惑う事ばかりだ。でも、嫌じゃないんだ。もっとキミと話したい、もっとキミに振れていたい、そんな感情が溢れて止まらない。これをワガママと言うなら、ボクは最大級のワガママでキミを離したりしない。





→その後のレイジとナツキくんは…




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