ゆめ
□悩む。
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わたしの朝は、いつも目覚めがとてもいい。
小さいころの習慣が染み付いしまったのか、松平さまのところで生活していた時もこの時間帯に起きていた。
あんまり早すぎるから、「たまには二度寝をしてみろ」って変に怒られたこともあったな。
おはようございます。
屯所の庭にある桜の木が、夜桜のようです。
ただ今、朝の四時半。
寝巻をさっと脱ぎ、道着を羽織る。
その日一日の気持ちを引き締めるように帯をきゅっと締める。
一つ深呼吸をして、竹刀を持って庭へ歩いた。
廊下を歩いていると、春といえどもさすがに日が昇る前なのだからすこし寒い。
真選組のいつもの騒がしさはそこにはなく、皆ただただ静かに眠っている。
廊下を抜けると、大きな庭の中へと入る。
生い茂る緑。控えめな池。
その中に静かに佇む、桜の木。
屯所にある桜のなかで、一番大きな木。
ここに来ると とても落ち着く。
父上と一緒に見た山桜に少しにているから。
長い黒髪を一つにまとめ、息を吐く。
「・・・よし。」
竹刀を構え、振り上げ、下ろす。
また振り上げ、下ろす。
竹刀の軌道で空気が斬れる。
以前、土方さんと近藤さんに言われたこと。
わたしの最大の武器は、速さ。
走ること、斬ることの速さが隊士たちの中で群を抜いていると。
でもその分、力が弱い。
どんなに早い剣も、威力がなければ意味がない。
「すずちゃんはその速さをこれから存分に発揮すればいいさ!威力とかはゆっくり鍛えれば大丈夫。ダッハッハ!!!」
そう近藤さんは言ってくれた。
皆さんの優しさは本当にうれしい。
でもそれは、わたしが女だから。
女が刀を振ることも、最初にここに来た時あまり受け入れてもらえなかった。
危ないから。怪我をするから。
すずちゃんは女の子だから。
それからの仕事といえば書類整理などの事務の仕事がほとんどだった。
なんとかお願いして稽古には出させてもらっている。
感謝しているけど・・・・なんだか悔しい。
素振りをしている腕を止め、道着の裾で汗を拭った。
「よう、早えな。」
そこにはわたしと同じ道着姿の土方さん。
「土方さん、おはようございます。」
「おう。桜見ながら素振りか?」
「あ、はい。この桜を見ると故郷の山桜を思い出して、落ち着くんです。」
「・・・つっても朝なのに夜桜みてェだな。」
「そうですね。」
土方さんは竹刀を肩に担ぎ、桜を見上げている。
どうしよう。打ち明けようかな。
わたしも皆さんと闘いたいって。
「むかし総悟がよ。」
「は、はい。」
「悪戯で公園から桜の枝折って持って帰ったことがあってな。さすがの近藤さんもこっぴどく総悟を叱ってた。」
「そうなんですか・・・あはは。」
言いそびれてしまった・・・。
「わたしも子供のころ、桜の木に可愛い小鳥を見つけて。そうしたら父上が持って帰ってきたんです。」
「ほう、小鳥をか。」
「いえ、桜の木ごと。」
「そっちかっ!!!」
「桜の木一本を担いで帰ってきたんです。結局家のそばに植えなおしたんですけれど・・・。」
「すげーな、お前の親父・・・。」
なんだろう。
またどきどきしてきた。
土方さんとこうして話すのは緊張するからかな。
でも、すごく楽しい。
「あ、もうこんな時間になっちまったな。朝飯行くか。」
「はい!じゃあ着替えてきます。」