ゆめ

□歩く。
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侍の国。わたしたちの国がそう呼ばれていたのは、今はもう昔の話。




今では多々の惑星からの移住者、天人が江戸の町でわたしたちと共存している。

江戸のなかでも最大の賑わいをもつ夜の歓楽街にして最悪の治安を誇るのが、かぶき町。

多種多様な人種がそろうこの町であるからにして、事件や騒ぎなど日常茶飯事である。






「・・・本当にこの町は危なっかしいな。煙草吸う余裕もねェよ。」


「土方さん・・・普通に十本くらい吸ってますよ?」



一歩前を歩く土方さんに先日用意した携帯用灰皿を差し出す。


「なんだこれ。」


かわいらしい猫の形。


「えと・・・歩き煙草はあれなので・・。副長補佐のお仕事です。」



遠慮気味に笑ってみる。


すると土方さんは少し俯きながら

「お・・・おう。」


と言って灰皿に煙草を押し付け火を消した。





かぶき町。とても賑やかな町。
多くの人々が往来し、色鮮やかな装飾で溢れ、多くの店が立ち、活気を振りまいている。


「・・・今周りを見ても平和な町にしか見えないのに。」


「油断するんじゃねェぞ桜村。どんなに平凡に見えても必ずどこかに大事の尻尾があるモンだ。」


「わ、わかってます。」


「何か見つけたらすぐに俺に言え。」

「・・・はい。」




土方さんとわたしで市中見回りを初めて一時間。


その間にヤクザ者同士の喧嘩やらひったくりやらカツアゲやら・・・。


間も空かず次々と事件を処理していった。



片付けたのは主に土方さんだけれど。




現場に行ってわたしも動こうとすると必ず


「下がってろ。」



と止められ、仕方なく野次馬を抑えたり町民の
避難を受け持った。






ヤクザ者以上に、ストレス解散のように暴れる土方さんの邪魔をするなんてあるはずもない。






だけど、わたしはまだ納得できていないみたいだ。


「・・・わたし、ここにいる意味あるのかな。」



「着いたぞ桜村。」


「え?」

はっと我に返って足を止めた場所を見上げる。


小さな甘味処だった。


「土方さん・・・?」

「ちょっくら休憩だ。今日はいろいろあって疲れただろ。昨日の約束もあるしな。」



「あ・・・ありがとうございます。」


「おう。」




木でできた長椅子に座り、注文した団子をほおばる。
土方さんは持参したマヨネーズを団子にこれでもかというほどかけてから食べ始めた。



この光景に慣れてしまった自分が怖い。






団子を食べる手を止め、隣にいる土方さんに話しかける。



「土方さん。」

「ん、何だ。」


「あ・・・口元にマヨネーズ付いてますよ」

持っていた手拭いでマヨネーズを拭おうとしたら土方さんは顔を真っ赤にした。

「いっ、いい!!自分でやる!!」


「あ、はい・・・。」

土方さんは店から配られたおしぼりでゴシゴシと拭った。


「・・・で、どうしたんだ。」


「えっと・・・、今日は何もお役に立てず申し訳ありません。土方さんに全部お任せして、わたしは・・・。」


「何言ってやがる。若い娘が無闇に野郎の喧嘩に突っ込むもんじゃねェよ。ましてや桜村はとっつぁんから預かった大事な身だ。守んのは当たり前だろうが。」
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