餡菌小説
□夏祭りの夜に
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「祭りなんてめちゃくちゃにしてやるー!」
バイキンUFOロボット形を操って櫓にパンチを繰り出す。櫓はバラバラに砕けて辺りに散らばった。次は屋台を足で踏み潰す。逃げ惑う街の人達の悲鳴。
「やめるんだバイキンマン!」
現れたアンパンマンはお祭りに来ていたんだろう。浴衣姿で。
いつものヒーロースーツじゃない姿に心臓がドキンと大きく鳴る。
しかしそれを無視して叫んだ。
「うるさーい!お祭りなんてなくなればいいのだ!」
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「くっそー。今日もバカ力で殴りやがって!これじゃ修理しないと動けないのだ」
アンパンチで吹っ飛ばされ、森の中に墜落した。殴られたためか、堕ちた衝撃のためかバイキンUFOは飛行不能になり、現在応急修理中である。
金づちを握ってトンカンやっていると、ふいに辺りがぱあっと明るくなった。続いてドォンという音。
どうやら花火が始まったらしい。
夜空に色とりどりの花が咲くのを見て、さすがのバイキンマンも素直に綺麗だと感じる。
(あいつは今頃、誰かと花火見てるのかな)
その光景を想像してチリッと胸が痛くなる。その胸の痛みを誤魔化すように呟いた。
「バ菓子パン」
「誰がバカだって?」
独り言に返事が返ってきて、バイキンマンはびくりと肩を揺らした。恐る恐る振り向くと、そこにはアンパンマンが腕を組んで立っていた。
「な、な、な、何でここにいるのだ!」
「誰かさんがめちゃくちゃにしちゃったお祭りも再開したし、誘われた子にも十分付き合ったから抜けてきたんだけど…」
アンパンマンは口唇を釣り上げる。それは街の人が見ることがおそらくないような黒い笑顔だった。
嫌な予感を覚えてバイキンマンはじり、と後退する。アンパンマンがこんな顔をする時はろくな事が起こらないのを過去の経験から学習していたからだ。
しかしバイキンマンが逃げようとしていることを察知したアンパンマンは素早く距離を詰めた。
「僕はバイキンマンと一緒に花火を見たいって思ってたのに、何で逃げるの?傷付くなぁ」
黒い笑顔を浮かべたままアンパンマンはバイキンマンの腕をとった。
「とりあえずさ、せっかくだから花火を堪能しようか」