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□白い花
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窓際の僕の席から、君はいつもよく見えた。
学校の花壇の花に水をやるその姿は、いつ見ても惹かれるものがあった。
彼の名前は、沙夜という。
華奢で小柄な体型。そして誰にでも優しい穏やかな性格が、敵を作らない理由だった。
いつもどこかふわふわしていて、同学年なのに「小さくて可愛い」と思ってしまう。彼の笑顔は、本当に可愛いのだ。
そして僕は、そんな彼に恋をしている。
今年初めて同じクラスになって、あの笑顔を近くで見た時だった。同性なのに、そんな事関係なく心臓がきゅうっと締め付けられた。もしかしたら、一人で顔が赤くなっていたかもしれない。
それからは、ずっと彼を目で追う毎日だった。
人気があって、可愛い彼には僕なんか不釣り合いだって分かってる。だけど、どうしても好きで、好きでたまらなかった。
花が好きな彼に、何か花をプレゼントしてあげたい。手を繋いでみたい。あわよくばキスだって……
そんな妄想すら、無意識にしてしまう。
そして毎日、学校のチャイムに現実に引き戻されるんだ。
僕はまた、ため息をついた。
―――――――――――
「じゃあね」「また明日ね」と、沙夜は声を掛けられながら教室を出る。それに対して僕は一人で教室を出た。
沙夜と僕が階段を降りる音が響く。まだみんな、教室に残っているみたいだ。
靴を履き替え校庭まで来ると、校庭の端の花壇に水をやる沙夜の姿が見えた。
僕は物陰から、少し遠巻きに見つめる。
楽しそうな周りの生徒の声を聞きながら、僕は考えた。
もしかして…話しかけられる?
彼は今、一人で水やりをしている。さりげなく話しかけるとすれば、今がチャンスだ。
でも、僕はあまり彼と話したことがない。急に話しかけたら、驚かれるだろうか?
心がモヤモヤし始めた。なんだか、すごく大掛かりな決断を迫られている気分だ。心臓がバクバクと激しく鳴る。
どうしよう、どうしよう……。
勇気の無い自分が嫌になって、思わずうつむいた。今日は、諦めようかな……
「……李玖くん?どうしたの?具合、悪いの…?!」
…え?
はっとして顔を上げると、じょうろを持った彼……沙夜が、走り寄って来る姿が見えた。
僕の目の前に来ると、大きな目をぱちぱちさせて、僕の事を心配そうに見つめる。心臓がどきっと跳ねた気がした。
僕が壁にもたれてうつむいていたから、具合が悪くなったんじゃないかと心配してくれたみたいだ。