裏・俺の戯言

□夏〜その後〜
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「エミリ、エミリ」
呼ばれた。呼ばれたからには、無視するわけにはいかない。まして相手はまだ小学生だ。邪険に扱うのはいただけない。
「どうしたの?」
とはいえ、もうすぐ大学受験を受けなければならない身としてはあんまり構ってあげる時間もない。最近は何か知らないけど、かなりの割合で私の所に寄ってくる。嫌じゃないんだけど、嫌じゃない分余計に困る。
「カズヤが病気」
「そう。風邪かなんか?」
「知らない。しっしっされた」
それはどうかと思うけど、多分それはこの子に風邪をうつさないためのカズ兄さんなりの優しさだろう。それはいい。
問題は、カズ兄さんが風邪を引いて、この子がここにいるという事実。
次にこの子が何を言ってくるか、嫌と言うほど予想がつく。
「遊ぼ」
やっぱりだ。



私、桐ヶ名絵美里は来年の一月から二月に大学受験を控えている受験生だ。学校は皆勤賞まっしぐら、宿題なんかも出された次の日にはだいたい提出。自分で言うのもなんだけど、真面目だと思う。誰かさんは私のことを「真面目なだけが取り柄みたいな奴」とか言ってたみたいだし。
「あー」
「やった。勝った」
その私が何で自宅の自分の部屋でこの女の子―――木見原かやのちゃんという名前だ―――とテレビゲームをして遊んでいるのか。カズ兄さんがこの家をかやのちゃんに教えてから、かやのちゃんがここに来ることがとても多くなった。別にいいけど、できれば受験が近いこの時期は避けてほしい。
「エミリ、もっかいやろ」
「あははは……うん」
断れない。だって……可愛いんだもの。
「絵美里ぃ!遊ぼぉ!」
「!?」
私の自室のドアをズバンと開けて入ってくる邪魔者その2。……言い方悪すぎたかな。
「ソノミ!」
「おーっかやのちゃんも来てたんだぁ。じゃぁ一緒に遊ぼぉ」
「ん!」
「うーん相変わらず素直で萌え萌えー!」
……かやのちゃんはともかくとして。
「園美……あなた勉強は?」
「あややや……絵美里、顔が怖いよぉ?」
「受験もうすぐなんだよ?のんびり私の家で遊んでて大丈夫なの?」
「やはは……大丈夫だよぉ」
この子は親友の東野園美。対人恐怖症克服後は逆に全く人見知りしなくなって、ゲームやアニメのキャラに少しでも似てる人がいたらだれかれ構わず声をかける困った子になってしまった。
……対人恐怖症のままよりはマシ……なのかな?
園美とかやのちゃんは初めて会ったときから何故か意気投合。何かぜんぜん違うタイプのような気がするんだけどなぁ。違うからこそ惹かれるのかな。
「あ、そだ絵美里ぃ」
「ん?何?」
「今度雅君もどき連れてきていぃ?」
「誰か知らないけど、ダメ」
「えぇ〜」
「当たり前でしょ……」
何で見ず知らずの人を自分の部屋に招かなきゃならないんだろう。それに雅君もどきって、多分男の人。余計ダメだ。雅君もどきも困るだろう。
園美とかやのちゃんは私をそっちのけでゲームを始めてしまった。私は勉強できるからそれはそれでいいんだけど、園美の勉強が心配だ。
……まぁ、この子は特別に自主勉しなくても成績優秀だから心配いらないんだろうけどね……。
「わっ」
急に携帯が震えた。メールじゃなくて電話だ。カズ兄さんから……?
「もしもし」
『おう、悪い。勉強の邪魔したか?』
「ううん、ちょうど今……休憩中だったから」
『そうか。でさ』
「うん」
『ひょっとして、かやのがそっちに行ってないか?』
「……ビンゴ」
『マジか……悪いな。ちょっと代わってくれないか』
「判った」
かやのちゃんはまだ携帯を持たせてもらってないみたいだし、直接電話をかけることができない。それにしても、よくここにいるって予想がついたなぁ。
「かやのちゃん、カズ兄さんが代わってって」
言いながら、携帯を渡す。
「カズヤが?」
一気に表情と目が明るくなる。ホント、カズ兄さんが大好きなんだな。
「もしもし」
『いいかかやの、絵美里は今大事な勉強をしてるんだ。邪魔しちゃ悪い。家で香澄さんと遊ぶか、もう最悪うちに来い』
「でも、ソノミも遊びに来てる」
『うん。ダメな例だ。真似しちゃいかん』
「判った。じゃあ、カズヤのとこに行く」
『…………。判った。待ってるよ』
「ん」
かやのちゃんは通話を終わらせて携帯を返してきた。どうやらカズ兄さんの部屋に行くみたいだけど、病気はもういいのかな……。
っと、メールだ。
『換気して俺はマスクも着けてる。熱はもうないし、かやのは体強いし多分問題ない』
……さすがカズ兄さん。
「かやの、カズヤのとこに行く」
「そう。行ってらっしゃい」
「ん。バイバイ、エミリ、ソノミ」
「うん、またね」
「じゃまた今度遊ぼぉねぇ」
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