特設読み切りズ

□差し出された手を掴む時
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手を伸ばして、ため息混じりにこう言った。
「まったくしょうがないな、お前という奴は」
まだ始まったばかりだ。全ては、ここから。





だるいぜ、正直だるい。
いい体格に産んでもらったが、特に興味のあるスポーツもない。オリンピックだとか世界選手権とか、ワールドカップとかそういうのはテレビで観て興奮するが、やってみようとは全然思わない。
だから、今何でこんなことになっているのかさっぱり判らない。
「でぇいっ!」
目の前の女子がボールを力の限り蹴ってきた。フォームも綺麗だし力はあるみたいだが、所詮女子だ。止まって見えるとまでは言わないが、充分とらえられる範囲だ。
バシッと手を伸ばしてキャッチする。
「よし。最高だ。入部だな」
「何でそうなるんだよ!おかしいだろ!」
まったく、ほんとに何でこんなことになっちまったんだろう……。



放課後になった。一年生の時のような新鮮さは消え失せ、三年生のように受験の緊張感はない。一番だれてる時期だよな、二年生って。
さて、今日発売の週刊誌でも買って帰って読むか。鞄に教科書やノートを突っ込み、帰り支度を整える。
ありゃ、これ週刊誌入るかな。まぁいいか。あれくらい手で持って帰ろう。
「早坂翔だな」
「…………」
気付けば、目の前に女子が立っていた。俺の机に手をついて、俺を上からのぞき込むように見ている。
こいつは……同じクラスだったな。名前は確か堀口。下の名前は知らん。興味ない。ストレートの黒髪のセミロングで、目はちょっとキツめだ。背は高くはない。どっちかっつーと低めだ。鼻も少し低い。
「何か用か?」
「お前、サッカー部に入らないか?」
「入らない」
めんどくさいからな。
「入部テストをしよう。グラウンドまで来い」
「拒否権はないのかよ!行かんぞ俺は!」
「だめだ。来い」
「意味判んねえ。帰る」
「バカかお前。そんないい体をしているのにスポーツをしない理由がないだろう」
「俺の勝手だ。やる気がないんだよ」
「やっていればやる気は出る」
「断定かよ。だいたい、何でサッカーなんだ」
予想はつくけどな。
堀口はあまりない胸を張り、得意そうな顔で口を開く。
「オレはサッカー部のマネージャーだからな。戦力補強も大事な仕事だ」
とか何とか語ってる間にそそくさと俺は帰ってしまおう……。
「待たんか」
「うぐぇ」
襟首を捕まれた。
「いいから来い」
「首絞まるから放せっ……」
「おお、悪い。大事な体に傷を付けてしまっては大変だ」
「ったく……しょうがねーな。行きゃいいんだろ行きゃ」
適当に終わらせて早く帰ろう。不合格になればいいだけの話だ。
「言っておくが、下手なフリをしても判るからな。そんなことしたら蹴る」
「……ちっ……」
傷つけちゃいけないんじゃなかったのかよ。とにかく、痛いのは嫌だ。そこそこの力でやってやるか。



というわけで、今に至る。
「つーか、俺何でキーパーなわけ?」
「オレが決めた」
「えー。やだ」
「少しは悩め!子供かお前は!」
「だってサッカーならバシバシ点取る役目がいいじゃんか。まぁ、サッカーとかまずやんねーけど」
「判らないか、サッカーに限らずスポーツの楽しさが」
「楽しいな。見てる分には」
「素晴らしい答えだ!入部だ!」
「お前頭弱い子か」
「自慢じゃないが成績は下の上くらいだな」
本当に自慢にならないレベルだ。俺でさえ並程度はできるのに。
「とにかく、俺はやらん」
「強情だなお前は!オレがやれと言うんだから、やれ!」
「強情なのはどっちだよ!横暴とか強引とかいう言葉を付け加えてもいいね!」
「理解しろ!スポーツを観戦するのは確かに楽しい。オレも大好きだ。けど、実際にやるとこれはまた違う楽しさが見えてくる!」
「お前はプレイヤーじゃないだろ」
「選手と一体のマネージャーはもはや選手の一人だ。オレはそう信じてる」
ったく、何なんだこいつは。早く行かねぇと週刊誌が売り切れちまうぞ。人気あるんだからな、あれ。
「そうだな……今度の日曜、練習試合がある」
「却下」
「まだ何も言ってないだろう」
「来いってんだろ。行かん。俺はゴロゴロする。だいたい、見たところでそれはただの観戦だろ」
「違う。出ろ」
「……は!?」
強引にも程がある!ド素人の俺がいきなり試合出場だと!?
「レギュラー陣はどうなるんだよ!」
「問題ない。今回の試合の目的は経験を積むことだ。レギュラーはお互いに封印だ」
つまり、二軍同士の戦いってわけね。それはそれで、俺は二軍レベルなのかと思うとちょっと腹が立つ。
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