特設読み切りズ

□追いかけた先で掴むモノ
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「んっん〜……くぁ……」
起き上がって大きくのびをする。続けざまに大欠伸だ。どうだ、このコンボ。寝起き限定の連続技だぞ。
どうでもいいけどさ。
時計を見ると、十一時半。もう昼時じゃないか。
「え〜っと……」
なんと。実に十三時間と三十分も寝てしまっていた。すげーな、こりゃ自慢できるレベルだ。
まぁ、昨日ようやく試験が終わって勉強漬けの毎日から解放されたんだし、蓄積されていた寝不足分を一気に消化したって別にいいだろう。下宿だから、特に誰が起こしに来るわけでもないし、起こされる筋合いも理由も必要もない。
とにかく、朝飯……もとい、昼飯を食わなきゃな。腹が減って死にそうだ。
とりあえず買い置きがあるだろうと思って、カップめん専用にしてある棚を開けてみる。
……あれ、ない……。
そうか……テスト週間に夜食で全部食っちまったんだ……。なら、冷蔵庫は……。
「……やっぱな」
プリンとかシュークリームは夜食に食ったし、普段あんまり自炊しないから何か作るための材料もない。もちろん、炊飯器もカラッポだ。中にあるのは缶ビールが二本とミネラルウォーター、あとは脱臭用の炭だけだった。
……これじゃあ、脱臭もクソもないな。
仕方ない、コンビニで弁当でも買ってこよう。
その辺に脱ぎ散らかしてあった服にちゃちゃっと着替えて、財布の中身を確認してから携帯も持って部屋を出る。コンビニ行くだけだし、鍵は開けっ放しでもいいかな。盗まれて困るようなモンなんかないし。
「う……」
何だ何だ、眩しいし暑いな。まぁ、世間一般では今は夏と呼ばれる季節だから当然か。学生達は夏休みというロングバケーションを利用してアホほど羽を伸ばしていることだろう。
そう言う俺も、その学生の内の一人なんだけどな。
最寄りのコンビニまでは、歩きで往復およそ十分。もうちょい近くにあれば嬉しいんだけどな。多少歩くけど、自転車を使うほどではない微妙な距離。困ったモンだ。何がだよ。
普段は何も考えずただ通り過ぎるだけの道。見て特に面白い物もないし、足を止めるほど珍しい物もない。ちょっとベンチに座って休憩するか、って感じの公園―――とは言っても、そこそこの広さはある―――ぐらいはあるけど、そこに寄ることもまぁ、俺は滅多にない。
けど、今日はなぜだか、普通の光景であるはずの、その公園に目が留まった。
どこにでもいそうな女の子だ。小学校三年か四年くらいだろうか。夏休みだし、学校もないんだろう。その辺、別段驚くことでもない。
でも……。
何やってんだ、ありゃ。
その子は、砂場で砂を山盛りにして、その上に立ち上を向いて、空に向かって片手を伸ばしながら何度もグーパーグーパーしていた。
「…………」
急にやめたと思ったら、今度は滑り台の上に登ってグーパーしだす。
何だアレ、変な電波でも受信してるのか?ヤバい奴だな。関わらん方がいい。
と、急に女の子がこっちを向いた。
うわ、マズい。
手で俺を呼んでいるようだ。周りを見ても昼間なのに誰もいないけど、ホントに俺かと確認するように自分を指さしてみたら、女の子は頷いた。
あー、やっちまったね。立ち止まったりせずにそのまま通り過ぎりゃよかった。
仕方なく滑り台の方に歩いていく。すぐ側まで行くと、女の子は滑り台を滑り降りて俺の足下から見上げてくる。
「……どうしたんだ?」
とりあえず訊いてみる。
「……届かない」
「は?」
「お兄さん、背、高い」
ああ、まぁね。190は越えてますから。「普通に背が高い人」よりこぶし一つ分以上は高いとは思うけど。
「届かないって、何にだ?」
空を見ても、少しの雲と鮮やかな青い空と真夏のド暑い太陽しかない。
「向こう側……」
「何の」
「しゃがんで」
「へ?」
「……?……かがんで」
いや、言い方変えなくても判るけど。
そのまま無視してもよかったけど、それなら最初呼ばれた時も同じだ。一回関わったんなら、この子が満足するまで構ってやろうじゃないの。とりあえず、すぐにでも飯は食いたいけど。
言われたとおりにしゃがんでみる。
「これでいいか?」
すると、女の子は俺の背中に回り込んでよじ登り、俺の肩に足をかけて俺の頭に手を乗せてきた。
いわゆる、肩車だ。
「立って」
「……はいはい」
女の子の膝を手で押さえながら立ち上がる。やっぱ軽いな。
「登って」
「ん?」
「滑り台」
何なんだ一体……けどまぁ、さっさと終わらせるためにとにかく従うことにした。
「登ったぞ」
「ん」
女の子の片手が俺の頭から離れた。上を向けないから判らないが、多分空に向かってグーパーしてるんだろう。
「…………」
小さくため息をついたと思ったら、離れていた手が俺の頭に再び乗せられた。
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