裏・俺の戯言

□管理人〜その後〜
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「さて」
着いた。ようやく。
「入るぞ」
「まっ、待ってくれ」
何ぃ!?学がどもっただと!?あり得ん、明日は台風か!?
「タングステン、降りろ。校内に猫は連れていけない」
「……にゃあ」
なんと。賢い猫だな。ちゃんと降りたじゃないか。
「すぅー、ふぅー……」
大きく深呼吸。はいイチ、ニ、サン、シー。なんてな。笑えない。
「よし、行こう」
「ったく、そこまで気合い入れなきゃ入れんのかよ。で、お前は何番なんだ?」
「教えるわけないだろう。自分以外に先に結果を知られるほどつまらないものはない」
「まぁそうか」
判らんでもない。俺は高校受験の時、合格発表を見てたら横からツレに「お前あったぞ。ほら」とかって指さされたことがある。アレは冷めた。何で先に言うんだよ。ちなみに、そいつは落ちた。ザマーミロだ、はっはっは。
合格発表は……っと、アレか。あーもう、人混みがうざいぞ。これだからネットで見たかったんだ。
「4649、4649……」
……言っちゃってますよ、学さーん。しかもなんだその番号。ヨロシクナンバーか。……俺も人のことは言えないが。
「…………」
俺の受験番号はなんと4444だ。縁起悪いことこの上ない。もう笑うしかない。
えーと、4444、4444……っと……。
んー……。
あ。
あった。
あったじゃないか。受かったぞオイ、合格だ。
うわー、うわー、やべェ。超嬉しいぞこれ。何なんだこれ、はぁ?
「あった!!」
「おおぅ」
ビビった。
「見ろ、あそこだ悟、4649だ!あったぞ、合格だ!やった!」
「ああ。良かったな」
「悟はどうだった?」
訊くのか。そりゃそうか。
悪戯してやろう。
「落ちたよ」
嘘を言ってやった。
「な……に……?」
おっと……予想外だ。ここまでとは。まるで自分が落ちたかのように絶望感に満ち満ちた顔をしてるぞ。まずい。ネタバラししたらキレそうだ。
「いや、大丈夫だぞ悟。医学科は六年制だ。お前が来年入学してきてもお前が学校にいる間私はずっと学校にいる。それにどうだ、二浪でもしてみろ、同じタイミングで卒業できるぞ。それは素敵なことじゃないか?勿論一度も留年しないのが前提だが、それでも―――」
「待て、待ってくれ」
「……?」
ああ、言いにくい。
「嘘だ。受かってるよ」
「……そうか」
「ああ」
「ふむ」
「…………」
「悟」
「何だ?」
「何発までならいい?」
おお、怖い。
「二発で勘弁してくれ」
「判った。いいだろう」



帰り道。
くらったのは一発の平手打ちと、一発のミドルキック。誰が蹴っていいっつったよ、ったく……。しかしよくその服装で蹴りが放てるな。そこは感心だよマジで。
「本気で信じたぞ、馬鹿者」
「ああ、悪かったよヨロシクナンバー」
「黙れ、デスナンバー」
ひどい言われようだ。まぁ確かにさっきのは俺が全面的に悪い。反省してる。
「しかし良かったな、二人とも受かってさ」
「それには同意だ。これほど嬉しいのは病院で悟が目を覚ました時以来だ」
「ほほう。俺の復活は大学合格と同等ですか」
「ふむ……いや、あの時は涙を流して喜んだからな。今回より上かも知れん」
「…………」
高い評価だな、と思って言ったんだが。そう言われるとこっちが恥ずかしくなるじゃないか。
「ま、まぁ、その二つじゃ喜びのベクトルがちょっと違うからな。比べなくてもいいんじゃないか」
「お前が言い出したんだろう」
いや、そうだけど。
「……言ったら」
「ん?」
「恥ずかしくなってきた」
「……ああ。俺も聞いてて恥ずかしかった」
「むむ……」
何かモジモジし出したぞ。らしくもない。でも可愛いな。
「……今なら、恥ずかしいついでに言える気がする」
「何をだ」
「素直になれるチャンスなんだ。そう急かすな」
急かしてないよ。てか、さっきの会話、何気に気にしてたのか。
「……悟」
「ん?」
学は右手の手袋を外し、真っ赤な顔をマフラーに埋めて言う。
「……手を、繋いでもいいか?」
…………。
「手を……繋ぎたい」
ああ。
もう。
そんな言われ方したら。
断れるわけないだろうがっ!!
「いいよ」
俺は左手で学の右手を掴んだ。ひんやりしていて気持ちいい。手袋してたんじゃないのかよ。
「……温かいな、悟の手は……」
「お前の手が冷たいんだよ」
どっちもあると思うけどさ。
「なあ、悟」
「何だ?」
「……その……」
「何だよ」
「……好きだぞ。大好きだ」
「……ああ。俺も大好きさ」
「うん……。楽しみだな、大学生活」
「そうだな。楽しみだ」
「にゃあ」
学の頭の上のタングステンが、控えめに一声鳴いた。



管理人〜その後〜 完
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