LIGHT JOKER

□LIGHT JOKER〜ある殺人鬼の憂鬱〜
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私の名前は中本笑華。判らない方もいるかも知れませんから一応補足しておきますと、笑華は「えみか」と読みます。
今日も妹の香織は寝坊です。起こしていては私まで遅刻してしまいますので放っていきます。それからお隣の沖津家へ寄り、私の、えと、その、恋人の…沖津圭君を迎えに行って、一緒に学校に向かいます。空ちゃんはお寝坊さんなのか、朝はあまり会いません。
バスに乗って他愛のない会話をしつつ、学校の最寄りのバス停で降ります。220円です。これがなければ朝ご飯ももっと豪華になると思います。圭はタダで乗ります。催眠術で運転手さんを操ってしまうんです。ずるいですよね…。
げた箱で圭と別れ、上履きにはきかえて自分の教室に向かいます。ガラリと音を立てて開く教室の引き戸。自分の机に鞄を置き、ふといつもと違う光景に気がつきます。
「おはようございます、愛佳。今日は珍しく遅刻じゃないんですね」
私の前の席の間桐愛佳さんです。いつもは一限目が終わるくらいに学校に来るんですが、今日は遅刻じゃありません。
「あぁ、おはよ、笑華。うん、まぁね。今日はね」
心なしかテンションが低いです。何かあったんでしょうか?
(我が主)
と、頭の中で語りかけてくるのは私の中の「闇」、河野貴明君です。
彼は愛佳にゾッコン片想い中で、私はそのことをタネに貴明君をよく使い走っています。便利ですよ?
(何でしょう)
(愛佳殿。何か変だが)
(やはりそう思いましたか。私もそう思います)
(どうしたのか)
(知りませんよ。とりあえず様子見ですね)
(了解)
そんなこんなでHRが始まり、一限目が始まります。今日も満人君は遅刻でした。

ようやくお昼ご飯です。今日のおにぎりはいつもの梅干しに加えて贅沢にもごま塩をふってみました。それをほくほく顔で頬張る私を哀れみの目で皆が見てきますが、そんなことどうでもいいです。慣れました。裕福な人にはおにぎりにごま塩をふるというささやかな贅沢が判らないんです。
と、愛佳の箸は全然進んでいません。やはり何かあったのでしょうか。
「満人君、勇気君、空ちゃん、ちょっと」
「ん?」
「何」
「どうしたんですか?」
香織の彼、古賀満人君に卓球部の先輩である師堂将士部長の弟、師堂勇気君、それに圭の年の離れた妹、沖津空ちゃんを呼んでひそひそと話を始めます。
「愛佳の様子がおかしいんですよ」
「また貧相な昼飯だな」
「私のことは今はどうでもいいんですっ。ごま塩美味しいですっ」
「うん、確かに今日の間桐は変だね。いつもより静かだ」
「授業中に寝てもいませんしね。ぼうっとしていて板書はいつも通りしていませんが」
「でしょう?絶対に何かあると思うんです」
すると、後ろで愛佳が
「はぁ…」とため息。
ため息っ?クサンチッペとかいう怪しいオタク霊能者にもらった特異な能力を持った、あの人殺しをも躊躇わない愛佳がため息!?明日は吹雪確定です!
「聞いたか今の?間桐がため息ついたぜ?」
「聞きました。何か色々怖いです」
「真冬の台風よりお目にかかれない光景だよね」
「ため息暴風警報だ」
「何言ってんの意味判んない」
「どうしましょう愛佳が死んじゃいますー!」
「ため息ついたくらいじゃ死にませんよ」
「何かヤなことあったんじゃない」
「愛佳ならその辺のモノを破壊してストレス発散しますからそれは違うでしょう」
何が起きているのでしょうか。まさか病気?もしくは…愛佳に限ってこれはないとは思いますが……恋の悩みっ?
「好きな人ができたとか…」
「ないね」
「ないな」
「ないですね」
三人に同時に否定されました。そりゃそうですよね…。
「なら何であんな風に…」
「何話してんのコソコソと」
「ぎゃあー!!出たな怪物!」
「古賀ァ…よっぽど死にたいみたいね」
「おっ、落ち着いてください愛佳!満人君も悪気があって…」
「言ったんだろうね」
勇気君!余計な口を挟まないで下さい!
「殺す」
「待って下さい愛佳〜!」
「…怪物…くくっ」
空ちゃん!火に油を注がないで下さい!
「殺す」
「ストップ!愛佳正気を取り戻して!」
「来るな怪物〜!」
満人君!そのとどめの一言は危険極まりないです!
「………」
「……愛佳……?」
しかし予想に反して愛佳はプシュ〜と音を立てて戦意喪失。そのまま自分の席に戻ってほとんど減っていないお弁当を片づけ始めます。
私たちはまたひそひそ話を始めました。
「おかしいです!絶対におかしいです!今の状況、いつもなら絶対満人君は死んでました!」
「そうだな。冷や汗モノの一芝居だったが。死ぬかと思った」
「あのまま殺されればよかったのに」
「ダメです。満人さんが死んだら信夫さんが悲しみますから」
「話がそれてますよ?」
ここでチャイムが鳴ります。結局愛佳の様子の変化の真相は掴めないままでした…。
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