LIGHT JOKER

□LIGHT JOKER〜数学強化週間〜
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中本香織は加持こなたと小檜山七星を家に呼び、居間に招き入れた。
とりあえず居間のテーブルを囲んで座る三人。こなたと七星が隣に座り、香織だけ向かいに座っている。
台所では笑華が紅茶を淹れている。苦しい家計でも客はちゃんともてなすのだ。そして何故か隣で修がクッキー作りに挑戦中だ。沖津家は今圭が台所を占領しているらしい。
香織より成績の悪い七星とこなただが、数学に限って言えば香織が頭一つ飛び出て悪い。香織の魂胆は見え見えだ。
香織は真剣な表情で二人を見据えている。その気迫で、普段常にニコニコしている七星さえ真顔だった。
と、紅茶を淹れた笑華が側に来て、
「お砂糖は?」
と訊くと、二人はにへっと顔を綻ばせ、こなたは指を一本、七星は二本立てた。
そして、香織が口を開く。
「二人とも、これを見て」
テーブルの上にドサッと乗せられたのは、数学の問題集だ。
「こ、これはー!」
「ウチらの夏休みの宿題やなー」
「ん?でも私達のより量多くない?」
「いいところに気がついたわねこなた!期末考査、ちょーっと数学で飛び出た成績とったからって特別課題が出たのよ私にだけ!」
何故か誇らしげに香織が言う。
「こんなのどうしようもないわ!私は夏休みの宿題は全部写させてもらおうと思ってたのに!」
香織の言葉を聞いて嫌な予感がしたこなたと七星が同時に訊く。
「「…それで?」」
「やって!」
「アホか」
ポカリと修が香織の頭を小突いた。
「痛っ!何すんのひどいよ修兄!」
「ひどいのはお前の頭だバカ野郎!特別課題の意味判ってんのか自分でやれ自分で!」
そんな会話を聞きながら修も含めた五人の後ろで佇む怪しい影。
亞花里だった。
「まったくいつまでも世話の焼ける妹ね…だけど安心しなさい、振り返ればそこにいるあんたの不可能ブレイカーそれがこのオレ中本亞花里!」
香織がぱぁっと顔を輝かせて言う。
「え!?亞花里やってくれんの?」
「論外よ!!」
亞花里、即答。
「何を甘ったれたこと言ってんのよこのうかれ妹!学生の本分は学業!妹の仕事を奪う、これは姉の義務にあらず!」
「じゃあどうしろってのよ!誰もやってくれない、自分の力じゃできやしない。だったら残る選択肢は一つ、勉強してできるようになるしかないじゃない!」
「無理よ!!それは既に人のなせる業にあらず、神仏の領域まさに奇跡!勇気と無謀をはき違えちゃダメよ香織!あんたに数学ができるなら人は鼻毛で地球を割れる!!」
「鼻っ!?」
マシンガン口喧嘩に唖然とする四人。いち早く我に返った笑華がなだめる。
「亞花里、鼻毛は流石に言い過ぎでは…」
「あんた数学でオレに口答えする気!?黙るがいいわこの貧乳勉強オタク!!」
ずしっと笑華の辺りの空気が暗く重くなる。
「貧乳…オタク…」
「笑華ちゃん、笑華ちゃん、そんな落ち込まんときーやー」
「お前ら、とりあえず落ち着け」
「修の言うことなら♪」
亞花里のゾッコンぶりもたいしたものである。
修が何かされないかと警戒しながら亞花里に訊く。
「何か打つ手があんのか?」
「モチのロン!オレが直々に教えればこんなん一発よ!どんな苦手も得意に変化!泣く子も黙る熱血指導、一に根性二に努力!それがこのオレ中本亞花里!!」
「うっさい。黙れ」
「はい♪」
何故か亞花里のテンションは上がりっぱなしである。修がいるからというのもあるが、前から亞花里は数学を教えたがっていたのでようやく機会がやってきたと喜んでいるのだ。
「…こいつが教えればできるそうだ。どうだ?」
「…やってみる価値はありそうね…」
「で、そこ」
修がこなたと七星の方を向く。
「へ?」
「ウチ?」
「他に誰がいるんだよ」
「笑華さんが…」
「屁理屈言うな。あいつはいつの間にか自室に引きこもったからいない。笑華の誕生会でやたら下ネタ連発してた青髪のチビ、同じく誕生会で真っ先に酒にぶっ倒れた天然ボケ。お前らもこいつの指導を受ける気はないか?」
「え…私は…」
「ウチ天然ちゃうてー」
「決まりだな。生徒は三人だ。頑張れ亞花里」
修はクッキーの焼け具合を見るために台所へ逃走した。
「うん!頑張るー♪」
「は!?私らまだ何も…」
「亞花里センセ、宜しくお願いしますー」
「七星!?」
「亞花里…どんな教え方するのかな…私ちょっと怖くなってきたわ」
「とほほ…やらなきゃならないゲームがあったのに…」



「まず、ペナルティを先に言っとくわ!オレが出す問題をミスったら一問ミスごとに山嵐一発」
「山嵐!?」
山嵐とは柔道の投げ技の一種である。数ある柔道技の中でも危険性から禁じ手となっているものの一つだ。相手の足を払い腕を持って押し、逆さまになったところで頭を強く地面に叩きつける大技である。
「ヤマアラシってー?」
「簡単に言えば、問題ミスったら死ぬってことだよ七星…」
「怖ー」
「怖そうに見えないんだけど…」
「私語禁止!!!!」
「「「はいっ!!」」」
修は少しだけ焦げてしまったクッキーを見て舌打ちをした。
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