裏・俺の戯言

□裏LIGHT JOKER〜歪んだ愛〜
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「もぉ〜ダメじゃんか二人ともぉ。こんなに残しちゃってさぁ」
亞花里は文句を言いながら二人分の食事をさげる。
「もっと食わないと体に悪いよ?次はちゃんと食べんのよ?」
亞花里の言葉に対する返事はない。だが、亞花里はにこっと笑って頷き、部屋を出ていった。
「次は……もっと頑張って作るからね……」



朝起きて制服を着て、さっさと学校に行く亞花里。家を出る前には必ず二階に向けて
「行ってくるよー!アンタらも早く起きないと遅刻するわよー!」
と言って出る。隣に住む沖津家の面々はそんな亞花里を見ていつも胸を痛めていた。
「圭……」
「あぁ?」
「アレ、何とかしてくれよ……催眠術か何かでさ」
「……できりゃやってるよ」
「亞花里さんは……あれはあれで苦しんでるんです。……きっと」
「……どうしちまったんだろうな、ホントに」





坊主がお経を詠んでいる。
棺桶は、二つ。
遺影も、二つ。
葬式を行う金などどこにあったのか知らないが、それなりに立派な葬儀がごく近親者だけ呼ばれて行われた。
参加者の涙は、既に枯れていた。
しばらく、坊主がお経を詠み木魚を叩く音だけが響く。
「あ、そーだ」
突然、亞花里が言葉を発して立ち上がり、棺桶を二つとも開けた。
「お、おいおい!何やってんだお前!」
圭が驚いて亞花里を止めようとする。
「へ?いや、寝んだったら部屋の布団で寝かさないと風邪引くし」
よいしょ、と二つの遺体を両肩に担いで葬儀場を出ていく亞花里。参列していた者は揃って呆然と見送るだけだった。
「起きたらオレがホットケーキ焼いたげるからねー。ああ、風邪引いたら大変だ、早く帰らなきゃ」
笑華は、戦死。香織は、自殺だった。





「…………」
「…………?みんな、しずか」
「シャオ……。いいんだ。今は……何も話したくない気分なんだよ、俺達」
「そう」



亞花里が学校での授業を終え家に帰ってきた。
「ただいまー。今日の晩ご飯は……」
リビングの扉を開けて中に足を踏み入れても誰もいない。テーブルの上に置いてある紙切れには、
『作ってあるのが冷蔵庫に入ってるから、弁当箱に突っ込んで持ってってね 亞花里』
と書いてある。
「まだ寝てんのかしら……しょうがない奴らねホント」
仕方なく台所に行き、亞花里は夕飯の調理を始めた。包丁で少し指を切ってしまう。
「痛っ」
指を伝っていく自分の血を見て、亞花里は涙を流した。
「…………起きてよ、二人とも……」
誘われるように二階の笑華の自室へ。二人の面倒を一度に見るために香織もここに寝かせてある。
二つの遺体は既に腐敗していて、どこから入ったのか蠅がたかっている。
「くそ、くそっ!どっか行け!」
蠅叩きの代わりに自分の手を使って退治する。そして泣きながら二つの物の側で座り込んだ。
「ああ……笑華……香織も……すごく綺麗だよ……。オレは、ずぅっと側にいるからね……」
笑華の部屋と隣り合っている修の部屋から、修は亞花里を見ていた。そして少し顔を歪め、カーテンを閉めて部屋を出た。



「行ってくる」
「あン?何処へだよ」
「亞花里にちゃんと教えてやるんだよ」
「……何かあったら呼べ」
「ああ」
修は家を出て隣の中本家へ向かった。ものの十数秒で到着し、無遠慮にも勝手に上がり込む。
「亞花里!」
階段を荒々しく登って、笑華の部屋のドアを開けながら修は叫んだ。
「あ、修……。何?オレ今からこの子らに晩ご飯作ってやんなきゃなんないんだけど」
「いい加減目ェ覚ましやがれこの野郎!辛かったら辛いって素直に言やいいだろうが!!何で辛くないフリなんかするんだ!!」
「辛い?何で?」
「笑華と香織は……もう死んでるんだよ!!」
「………………」
亞花里の目が輝きを失った。虚ろな目で修と見つめ合う。修は決して目をそらさなかった。
この時、亞花里の中で全てが崩れさってしまった。
「あ……!!あ、あ、あ、あぁぁ……!あああ、あああああ……!!」
「…………オイ、亞花」
「うわああぁぁぁあ!!」
亞花里が急に修に襲いかかってきた。不意を打たれた修は亞花里に首を捕まれてしまう。
「何言ってんのよバーカ!!知ってるわよ!知ってる知ってるそんなこと!!オレが一番よく知ってるわよ!!アンタなんかにオレの何が判るってのよ!何しに来たのよ!!何で壊すのよ!!!」
(ぐ……何だコイツすげェ力だ……!!)
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