裏・俺の戯言

□半裏LIGHT JOKER〜文芸部の活動〜
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「笑華は文芸部と卓球部、兼部だったよな」
「うん」
下校しながら、圭と笑華は他愛もない話に興じる。
「小説書いてんだよな」
「あ……まあ」
「どんな話なんだ?」
圭は元々笑華には読心術を使わないようにしていたので、内容は知らなかったのだ。
「えっと……恋愛、小説?」
「訊くなよ」
笑華は何やら知らないがえへへと照れ笑いしている。あからさまに怪しいが、あまり深く追求しない方が身の為な気がした圭はあえて何も訊かなかった。



中本邸にて。
「ただいま帰りましたー」
「お帰りぃ。今日の晩ご飯はー?」
「ああ、私が担当でしたっけ」
笑華は鞄をテーブルに置いてブレザーを脱ぎハンガーにかけ、台所の冷蔵庫の中身を確認しに行った。
「……」
亞花里の目の前のテーブルには笑華の鞄。
これは。
(見ないわけにはいかないわね!!)
何で。
作者のツッコミもむなしく、わくわくした表情で鞄を開ける亞花里。教科書類の中から、何やら面白そうな紙の束が見つかった。
「なになに……文芸部作品……『夏色の吐息』?二年B組中本笑華・著……」
これは。
(読まないわけにはいかないわね!!)
だから何で。
やはり作者のツッコミむなしく、タイトルと著者だけが書かれた紙をぺらりとめくる亞花里。
ああ、ああ、亞花里!後ろ!
ああ、作者の声が聞こえないのか!読むんじゃない!
「亞・花・里〜……?」
「う!」
あー……間に合わなかったか。
いつもの笑華の柔らかな笑顔はなりを潜め、壮絶な作り笑いがそこにあった。
笑華の作り笑いは機嫌が悪いほど輝きを増す。今の作り笑いは今までにない光を放っていた。
「うふふふ……」
「あははは……!」
「亞花里?」
「はいっ!」
「今日の晩ご飯は人肉のソテーにしようかと思うんですが、どうでしょう?」
「あ、はは、は……!」
ひきつった笑い声をもらしながら涙を流し、ガタガタ震えつつ首を振る亞花里。
「もうっ」
笑華は壮絶な作り笑いを消し去り、子供を諭すような怒った顔になった。そして亞花里の手から「夏色の吐息」を取り返す。
「勝手に鞄の中なんて見ないで下さいっ。特にこれは、身内に見られるのは恥ずかしくてたまらないんですから」
「でも、ね、ちょっとだけ……」
「今日の晩ご飯は人肉の煮付けにしましょうね」
「麻婆豆腐がいいです」

その日の夕食は、ハヤシライスだった。



夜。月が淡い光で街を映し出す頃。香織も科奈理も、勿論笑華も寝ている。
「………………」
足音をたてないよう、そろりそろりと廊下を歩く寝間着の亞花里。ゆ〜っくりと笑華の自室のドアを開け、中に入る。
と。
「!!」
驚いた。亞花里は声を上げなかったのを自分でほめたいくらいだった。
部屋に入った所で、「闇」が仁王立ちしていたのだ。
『何用』
「え……」
『何用』
「えっと……」
笑華が護衛につけたのだろう。見られるのがよっぽど恥ずかしいらしい。
「お、おやすみのキスを……」
『結構』
「は〜い……」
再びゆっくりと部屋を出て無音でドアを閉める亞花里。「闇」を使うとは、反則に近い。
「ふぅ〜、何だってあんなもの置いとくかな……。アレさえいなければなあ……。くそ、愛佳のことになると急にヘタレになるくせに……!」
小声でひとりごちると、笑華の自室のドアから「闇」がぬっと顔を出した。
「っ!!」
また驚いてしまった。やはりよく声を上げなかったと自分をほめたい亞花里である。
『何か言ったか』
「何も言ってませ〜ん……」
『誰がヘタレだ』
「聞こえてんじゃん……」
『……亞花里殿』
「ん?」
『我が主の文芸作品は、少々特殊だ。読んだところで楽しめるものとは思えない』
「別に楽しむために読むんじゃないもの。弱みを握るために……」
『亞花里殿』
「……すんません」
『とにかく、読むことはあまり勧めない。人を見る目が変わるおそれもある』
「……どんな内容なのか激しく気になるわね。まぁ、判ったわ。笑華に頼んで首を縦に振るまでは我慢することにする」
『我は……忠告はした』
無表情で淡々と語ってから、「闇」は部屋に戻っていった。
「大袈裟ねぇ……」



「ふんふふんふふーん♪」
鼻歌を歌って上機嫌な笑華。文芸部の部室の扉を開ける。
「こんにち……あら?」
扉を開けても、部室に誰もいない。
「コピーでもしに行ってるんでしょうかね。じゃあ私は私の作業を」
笑華はすでに立ち上がっているパソコンに向かって座り、フロッピーディスクを挿入。まだ途中だった「夏色の吐息」を開き、続きをパソコン画面に打ち込み始めた。
「うふふふふ……」
笑華がこうなると、もうしばらくは何を言っても反応しない。文芸部員はもうそこはそういうものと考え、笑華が陣取っているときはパソコンの使用を諦めている。
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