続々・LIGHT JOKER

□LIGHT JOKER〜それぞれの望み〜
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さァ、俺の番が回ってきたな。物語の真っ直中で出すとは、なかなか判ってるじゃないか。
俺の名は中本竜二。体を弄られるのを黙って我慢した甲斐があったってモンだ。何のことか判んねェって?なら、本編を読むんだな。
じゃ、五十七気絶目、行こうか。



ここはイギリス、ロンドン。
背の高い夫婦が楽しそうに街を歩いていた。
「はっはっHAー!いやーしかし圭達が吸血鬼ともめるとはなー!」
男の方は、沖津貫太郎。
「あらあら、一体いつの話をしているのかしら?」
女の方は、沖津千草。
娘と息子をほったらかしてずーっと世界中を旅して、もう十五年以上になる。時々家にも帰ってみたが、最初帰ったときに親だと気付いてくれたのは旅の途中で千草が産み、しばらく共に旅をした後段ボールに詰めて家に送った空だけだった。
薬で眠らせて猫に変身させたまではまだよかった(それでも親として失格ではある)が、さすがに段ボールはやりすぎだろう。起きた空は捨てられたと思って猫状態のまま段ボールの中で泣いていたらしい。
大量のキャットフードと水分が一緒に詰められていたので餓死することはなかったが、尽きたらどうしようかと空が考えていた矢先、沖津家に着いて兄二人に出会った次第だ。空は段ボールの中で親を疑っていたが、家に着いてからは親も兄も心から信頼するようになった。
「フーム……そうだ、千草さん!」
「はい?」
「モンゴルに行こう!」
「あらあら、はいはい。行きましょうね」
何が「そうだ」なのかさっぱり判らないが、もはや千草は貫太郎のこの突拍子のなさに慣れきっていた。
決まるやいなや、ガシッと千草の手を掴んで猛スピードで空港へダッシュする貫太郎。千草によると、何を考えているのか判らないのが、魅力だそうだ。
「千草さん」
「はい?」
「いつか、ガキどもとも一緒に旅をしたいな」
「あらあら、今日の貫太郎さんは可愛いわね」
「何ー!?いつもは可愛くないのか!」
「あらあら……いつもは面白いわよ」
「FUーん。そうなのか」
「そうなのよ」



順番に仮眠をとって警戒と捜索に当たる亞花里、愛佳、麗音、貴詩、パエリア、華斬、ヤーヴォシィ。
夕は寝る必要がないため一晩中香織を見張り、圭は自宅に帰って休養。心葉と科奈理は眠らずに作業をこなしていた。
「く……限界かしら」
科奈理の足がふらついてきた。小さな体で徹夜をして歩き回るのは少し無理があったのかも知れない。
「後は長沙だけなのに……何でよりによって」
意識が朦朧としてくる。ビルにもたれて少し寝ようかと思っていると、自分を呼ぶ声がした。
『科奈理しゃまーっ!!』
「その声と、口調は……椿ね?」
目は半分閉じていて、視界もぼやけてよく見えない。だが、確かに乃亜の長沙、椿の声だった。
『飛ばされたんですの!科奈理しゃまのお弟子しゃまに護符を貼られたんですの!モンゴルですの!』
「落ち、着……いて。私……眠いの」
『寝るですの?』
「疲れと……眠気を、とってちょうだい……」
『判りましたですのー!』
椿が科奈理に手をかざす。淡い光に包まれ、科奈理の意識は急速に覚醒していった。
「ありがとう……。椿、早く来て。乃亜ちゃんが死んで大分時間が経ってるわ。間に合ううちに治療を」
『えぇ!?ご主人しゃま死んだですの!?』
「ついてきて」



科奈理と椿は早足で乃亜の遺体のある場所に向かった。まだ人払いの護符は生きている。相当な量の念が込められているようだ。やはり竜二は空恐ろしい。
『うゃーっ!!ご主人しゃまー!!』
「早く」
『はいですの!科奈理しゃま、このトゲトゲ抜いて下しゃいですの!』
「判った」
科奈理は乃亜に刺さっている鋭い何かを全て抜いた。
『始めるですの』
椿は乃亜に手を翳す。淡い光が椿と乃亜を包んだ。
『……っく……』
苦しそうだ。どうやら苦戦しているらしい。
『科奈理しゃま……念を分けて欲しいですの……』
「判ったわ」
科奈理は椿に念を送り始めた。椿の表情はどんどん険しくなる。
『ううぅぅぅ……』
しばらく必死に治療した後、淡い光は消えた。見た目には乃亜には怪我がないように見える。
『終わりましたですの……』
科奈理は乃亜の手首に指を当てた。
「……まだ動いてないわ」
『心肺蘇生をお願いしますですの』
「ん」
科奈理は心臓マッサージと人工呼吸を繰り返した。何度かすると乃亜が息を吹き返した。
「やった……」
まだ気は失っているが、とりあえずは安心だ。椿を乃亜の右眼に戻し、科奈理は念飛符で乃亜と青空の集会場に飛んだ。
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