続々・LIGHT JOKER

□LIGHT JOKER〜犠牲の上の生〜
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…………。
む。
我か。我の名は……貴明。河野貴明。我が主、中本笑華の「闇」だ。
…………。
七十一気絶目、始まるようだな。



ヤーヴォシィは愛刀、八重桜の手入れをしながら、また話しかけていた。朱雀の草薙と風月を見てからというもの、毎日話しかけているのだ。「輪」のメンバーは気持ち悪がっている。だが、もうもはや完全に無視だ。どうせ何か言ってもヤーヴォシィはやめたりしないだろう。
「……八重桜。お前は覚えているか。お前と弔王を俺が初めて持った時のことを」
いつもは大体すぐ横で海が本を読んでいるのだが、今日はどうやら出かけているようだ。
実は、この夏海へ遊びに行くために風華と水着を買いに行っているのだ。ヤーヴォシィが知る由もないが、海は今頃仲直りした親友と楽しく過ごしているはずである。
「……あの時は……まだ俺も何も知らない子供だったな……」





ヤーヴォシィ=バリック───本名スラーヴ・ベイズは、とある小さな村の生まれだった。南方の国の、密林に囲まれた村だ。
スラーヴは少年の頃から、刃物───特に刀が好きだった。よく知り合いの骨董屋に足を運んで刀を見せてもらっていた。
小さな村なので、村人全員が家族同然で暮らしていた。とても平和だったのだ。いつまでもこんな日々が続くのだろうとスラーヴは当然のように思っていた。
当時、スラーヴは十二歳。
「こんにちは、おじさんっ!」
いつものようにガラクタばかりを集めては自慢している骨董屋に顔を出した。
「おぉスラーヴ、よく来たな。今日も刀か?」
「うん、見てもいい?」
「くく、待てスラーヴ。これを見ろ」
骨董屋の店主は、二振りの刀を持ってスラーヴに見せた。
「何、新しい刀?」
「そうだ!いい品が入ったぞ、ほらこっちのが『弔王』、これが『八重桜』だ」
「うわあ……見せて見せて!」
「ははは、ほら」
スラーヴは刀を受け取り、まず弔王を抜いて振ってみた。
「短めで軽いね!でも切れ味はよさそうだなあ。扱いやすそう」
弔王を置き、八重桜を抜いて振ってみる。
「長くも短くもなく、重すぎず軽すぎない。これっていう特徴がない代わりに、どんな場面でも使えるオールラウンダーかな」
「見る目があるなスラーヴ!さぁ、買ってけ買ってけ!」
「ははは、タダなら買うよ!」
「がっはっはっは!そりゃ買うって言わないぞ!」
「んじゃ、また村空けるからさ、何か使いやすいナイフ貸して」
「おお、いいぞ」
店主は切れ味がよく、刃渡り二十センチほどのサバイバルナイフをスラーヴに渡した。
「今度はどのくらいだ?」
「四日くらい」
「短いな?」
「空気がね、違うんだ。狩りが上手くいきそうな気がして」
「はっはっは、そうか!今回は象でも狩ってくるのか?」
「この森に象はいないよ!よくて鹿八頭くらいかな?まぁ適当に切り上げてくるよ」
「まったく優秀なハンターだなスラーヴは。鹿の角二十頭分となら弔王と八重桜を交換してもいいぞ」
「本当!?」
鹿の角は意外といい金になるのでいつもは親に渡していたが、これから狩りに行く度に少しずつもらうことにした。
「ああ、それくらいの価値はあるからな」
「よーっし、俺俄然やる気出てきたよ!行ってくるね!」
「ああ、気をつけてなー!」
スラーヴは勢いよく村を出て密林に突っ込んでいった。



いつもとは明らかに空気が違う。狩りは上手くいきそうだが、いい雰囲気ではない。
(……何だ?変だな……)
明らかにおかしい。森が何かを恐れているようだ。動物達の挙動もいつもと違う。
スラーヴは木の実や小動物を食べながら過ごし、大きな動物を狩って持って帰るという狩りをしていた。まだ未熟なスラーヴはなるだけ長い間狩りに没頭するために何日も村を空けることが常だった。
早速、一頭目の獲物を見つけた。音を立てないように素早く近づき、サバイバルナイフを正確に投げる。
頭部に命中。一撃でしとめた。
「っへへ、幸先いいな!」
しとめた獲物からナイフを抜いて血を拭き、腰に差す。雌の鹿だ。残念ながら角はない。
「?」
鹿の腹部に傷がある。詳しく見てみると、どうやら銃創だ。弾丸が体内に残っている。やけにあっさりしとめられたと思ったら、最初から弱っていたらしい。
(……何で銃弾が?)
スラーヴの村で狩りに銃を使う者はいない。骨董屋で銃や銃弾を見たので弾が小さめの物だということは判ったが、詳しくは判らない。
どこかで撃たれてここまで逃げてきたのだろうか。考えても始まらないので、銃弾をそこらに捨てて獲物を持って移動を開始する。
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