特設読み切りズ

□命の管理人
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「おはようー!」
「おはよう」
「元気してたかー」
「久しぶりー!」
春休みが終わった。
あるいは、終わってしまったのか。
……微妙な感想なんか考えてないで、さっさと行こう。クラス替えの発表があるはずだ。確か、体育館の西側の壁にクラスと名前がずらりと書かれた紙が貼られているはず。
人だかりだ。あそこだな……。
うちの学校は成績順で毎年クラスが変わる。Iクラスまであって、Aクラスは優等生の塊、Iクラスは不良の根城。もうその辺にはよっぽどのことがないと誰も近づかない。
俺はまぁ、なんつーか。普通。並。平均。だから多分EかFかGクラスに名前があると……あれれ、ないな。
成績順に決まるといっても、別に通知票の結果でクラスが決まるワケじゃない。終業式の日に一斉に全員で同じ内容のテストをして、その得点で割り振られる。だから偶然そのテストで調子がよかったりすると、賢い連中と共に同じ部屋で授業を受けなきゃならないから、なんか居心地が悪い。
嫌だなぁ、下手してBクラスなんか行っちゃうとAクラスくずれとかがずっとピリピリしてるらしいから、教室で友達と馬鹿やったりできない。
まぁよくてもDくらいかなと思って見てると、ここにもない。HクラスやIクラスの連中はテスト自体放棄して0点扱いを受けた奴らばかりのはずだ。上すぎるのもごめんだけど、ここまで下だとそれはそれで困る。
ちなみに点数が同じの場合、通知票の結果で決まるらしい。その辺はホントかどうか定かじゃない。
最悪の場合は考えたくない。だから次はCクラスの名簿を見る。
真田悟、真田悟……。
あ、あった……。
Cクラスか。多分この中だと下から数えて何番目、とかいう世界だろう。ほとんど、下手をすれば全員が俺より上の奴らだ。
しょうがない……高校生活もこれが最後の一年だ。我慢して受験勉強に励むとしますか。
「よっ、悟」
「おう、亮太か」
悪友の斉藤亮太だ。一年、二年と同じクラスだったけど、多分今年は違うだろうな。
「あー、今年はクラス違うだろうなぁ。いやー残念だよ悟君」
「奇遇だな。俺もそう思ってたところだよ。Hクラスくらいに落とされたのか?」
「ふふん」
何か無駄にふんぞり返ってやがる。無性に腹立つな。
「何と!Aクラスだ!」
「嘘つけ」
「あー嘘ですよ。本当はCクラスだ。俺にしては偉業だよ」
「……そうか」
真田悟は出席番号21番。20番のとこを見てみると……。
斉藤亮太。
「おいマジかよ、お前Cクラス!?」
亮太も俺の名前を見つけたらしく、肩に手を置いて話しかけてきた。
「そうだな。今年もよくてD、悪くてGくらいだと思ってたけど、予想を大きく上回る大どんでん返し、大番狂わせだ」
「まさかお前がCクラスとはな……」
「そのセリフ、そっくりそのまま返してやるよ。そして俺達はもう一つ、同じことを考えているはずだ」
「そうだな。せーので言ってみるか」
「ああ。せーの」
「「まさか俺がCクラスとはな……」」



さてさて、Cクラスの連中に囲まれて始業式も終わり、さっさと家に帰った次第だ。
よし、前向きに考えよう。
まぁ9クラスある中、Cといえば上の下。飛び抜けた賢いクラスじゃ授業についていくことすらできないだろうから、俺レベルの奴が受験勉強に真剣に取り組むには最適なクラスなのかも知れない。三年生でEクラスとかにいるよりは、1ランク上の大学だって視野に入れることができるだろう。
そう、これで良かったんだ。
そう考えて、俺は眠りについた。



次の日。
朝のHRで担任教師が意外なことをのたまった。
「転校生がこのクラスに来た」
とのことだ。実際はこんな端的な言い方じゃなかったが、要は転校してきた奴がいるということが判ればいい。
「じゃあ、入って」
教師に呼ばれ、教室の引き戸を開けて入ってきたのは、女子用制服を着た美人。
綺麗に背中の真ん中あたりで切りそろえられた黒髪に、大きな目、少し高めの鼻。唇は薄く、眉毛も整ってる。手足は長いが、太いかどうかは判らない。まぁうちはブレザーだし、体のラインは見えにくいからな。
その女子は教壇に立つと、頭に着けてる赤いカチューシャをちょっといじってから、黒板に名前を書いた。
井ノ本学。
女なのに学とは。不憫な名前だな。男みたいじゃないか。
「では、自己紹介して下さい」
「イノモトマナビです。マナブと読んだ人は殺します」
唖然だ。自己紹介でいきなり「殺す」という単語が出るなんて思ってもみなかった。あーあ、こりゃこのクラスは多分全員死んだな。
けど、そのマナビちゃんとやらが次に放った言葉は、更に衝撃的だった。
「お前ら、皆嫌いだ」
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