続・LIGHT JOKER

□LIGHT JOKER〜大切な人〜B
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部屋の異常さにではない。そんなことは前に来たときに知っている。机には描きかけらしいマンガがあり、パソコンは節電モードになっている。マウスを少し動かせば画面がついて、何をしていたか判るが、今はそんなことをする気分でもないしする必要もない。
美少女が描かれた枕や掛け布団はベッドの上で綺麗に置いてあり、枕元にはいつでも引き寄せられるように美少女の描かれた抱き枕がある。シーツもきっとキャラものだろう。
本棚にある、綺麗すぎるほどに整頓されたマンガやそれっぽい小説。壁はおろか天井まで、電気と窓があるところ以外をすべて埋めている美少女のポスター。
知っていた。だから驚かない。
愛佳が驚いたのは、その部屋の真ん中にある「モノ」を見たからだ。
「クサン……チッペ……?」
巷では有名なオタク霊能者。一部では「偉大なるオタクの神」と呼ばれる、本名不詳の男。
クサンチッペ。
この部屋の主が、部屋の真ん中で大の字になって死んでいた。



クサンチッペが死んでいるのなら、笑華はさっさと病院に運んだ方がいいのだろう。圭が時空転移を使えばその程度は楽勝だ。
だが、圭も「闇」も、こんなになった笑華の体を誰かに預けるのは嫌だったし、どうせ病院に運んだところで手の施しようがないだろう。なら、戦いが終わった後でもいいから科奈理に治療を頼んだ方がまだ望みがある。「輪」のサークを呼んでもいい。
だがその科奈理も、玄地を相手にしている時に酸欠で倒れた。下手をして死んでしまっては笑華の命も絶望的だ。
「他のことを考える余裕が貴様にあるのか」
「だ……まれ……!!」
圭はやはりボロボロだ。龍にいいように弄ばれ、もはや常人なら立っていられないどころか意識も保てないような状態である。
「さぁ、どうやって我々を殺してくれるのかな。せいぜい頑張ってくれ」
「ぐ……ゥ……!!」



どうしよう。いつまでも呆然としていてはいけない。クサンチッペがいなければ笑華はほぼ確実に死ぬ。生き延びても左手も右手もないし、右足は見た限り骨が粉々だったから二度と動かないだろう。
「…………」
熟考することおよそ五分。
「……ん?何……体が……」
愛佳の体がぞわりと疼く。愛佳が知る由もないが、この時虎太郎が死んだのだ。虎太郎からの血を得て吸血鬼になった愛佳の血が、虎太郎の死に反応したのである。
「……治まった……何だったのかしら。まぁいいわ、とにかく状況を打破する方法を考えないと!」



朱雀は狂っていた。実は一番の仲間想いだった朱雀は、虎太郎が殺されて理性のタガが外れている。
「ウウゥ」
「にゃーっ!!」
「何だ何だー!?貴様らが先に手を出したんだジャマイカ!」
「あんたら許さない!ひっつかまえて爪一枚ずつはがして目ん玉くりぬいて……」
「そんな死に方嫌にゃー!」
「すぐ楽にならないようにゆっくりゆっくり殺してあげるわ!」
「嫌だーっ!!」
逃げ回る夕と貫太郎。
「仕方ない、奥の手だ!」
貫太郎が切り札を使うつもりらしい。
「〜♪」
一瞬、その場の空気が固まった。下手だ。下手すぎる歌だ。何の歌か判らないほどに下手である。
しかし効果はすぐにあらわれた。
「っくっ……」
龍が膝をついてしまったのだ。
「……何だ……?」
「……まさかこの歌!聖歌か!?」
龍の弱点の一つだ。朱雀と玄地には効果がない。
聖歌(らしき歌)を歌いながら、貫太郎は懐から冊子を一冊取り出す。ページを一つ破って器用に空中で紙飛行機を作って飛ばした。
龍に命中。
「ぐ……」
「今度は……」
「あの本!聖書か!?」
「圭〜!その紙飛行機をその若造にくっつけてろ!無害化できる!」
「判った!」
圭は落ちた紙飛行機を拾って龍にぴったりとつけた。手で押さえていないと落ちてしまう。
「は……な……せ……!」
「やなこった」
龍を拘束しつつ圭は炎で玄地や朱雀を攻撃する。
華斬と科奈理は気を失っているだけで死んではいないし、亞花里もヒットアンドアウェイを繰り返して息を吸い、玄地と対等以上に渡り合っていた。玄地の力は玄地の近くにしか及ばないので、華斬と科奈理以外の者が酸欠になることはなかった。
人間組が「血に浸る騎士団」を明らかに押している。



「8865、8866、8868……」
「香織」
「何さ」
「一個飛んだぞ」
「最後に一個引けばいいよ」
「そうか」
「……で、今何個だっけ?」
「知るか」
「……1、2、3、4……」
「…………」



「ぐぁっ!」
「捕らえた!」
亞花里が玄地を拘束した。
「アンタ右腕なかったからやりにくかったわー。さぁ、空気を元に戻しなさい」
「右腕がないとはいえ俺が体術で負けるなんて……メリッサ悔しいな」
「メリッサは副詞じゃないわよ」
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