裏・俺の戯言

□管理人〜その後〜
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「…………」
「…………」
「悟」
「何だね学君」
「茶化すな。私は素直に緊張していると認めた」
「認めたな」
「それを踏まえて私は言わせてもらう」
「おう。言ってみろ」
「……当たり前だ」
「へ?」
「緊張もするだろう!今日は運命の日なんだぞ!この一日で私達のこの先の人生が決まるんだ!」
「ンな大袈裟な……」
「大袈裟なものか。大学だぞ、高校までとはわけが違う。これから私達は新たな学び舎で会ったこともない先生や先輩の下で専門的な知識を修得し立派な社会人となりこの世の中に大いに貢献していかなければならないんだ」
「ま、まあ待て。落ち着け」
いつも割と早口だが、拍車がかかっている。なんつーか、責任感の強い奴だな、という感想くらいしか得られなかった。
「落ち着けられない。私は緊張しているからな」
こいつめ、開き直りやがった!
「じゃあそうだな……気を紛らわすために何かしたらどうだ?」
「何かとは?」
「うーん……」
しりとりとか古今東西とか王道だよな。
「しりとりしよう」
「うん。しりとりは得意だぞ」
ほほーぅ。言ってくるじゃないか。
「最初は何だ?私からでいいか」
「ああ。最初はしりとりの『り』だ」
「理非曲直」
「……は?何だそりゃ」
「道理にかなった正しいことと、外れた間違ったこと、という意味だ」
いや、別に意味を聞いているわけじゃないんだが。
「……草むら」
「落花流水」
……まさかこいつ。
「インコ」
「厚顔無恥」
……全ての文字を。
「地下鉄」
「痛定思痛」
四字熟語で返すつもりかー!?
「……なんて奴だ」
「悟、『う』だ」
「あ、ああ。運動会」
「一諾千金」
……勝っちまった。意味は知らんが、「ん」だ。
「……俺の勝ちか」
「何故だ」
「いや、『ん』だし」
「ああ、そうか。そういうルールだったな」
「……うん」
何かこいつとしりとりやるとしんどいぞ、無駄に。そんな意味の分からん言葉を言われ続けちゃ、もはや自分が何のゲームをしているのかも判らなくなってくる。
「しりとりはやめにしよう」
「……そうか。判った」
残念そうだ……負けたのに。
「あいうえお作文なんてどうだ。これなら勝ち負けとかないし、途中で終わることもない」
「うん。ならそれをやろう」
「まずは『あ』だ」
「ある晩」
「……短いな。『い』」
「一緒に」
「また短いな……『う』」
「受かったかどうか見に行く夢を見たんだ」
「ほほう」
何かここで一文終わっちまったが、構わず続けよう。
「『え』だ」
「縁起でもないが」
「…………。『お』」
「落ちた」
「ホントに縁起でもないなお前は!アホか、ここは嘘でも受かった展開に持ってくべきだろうが!」
「悟にアホ呼ばわりされるとは心外だ」
「いやそんなとこツッコんでくるなよ」
あーもう、やっぱりこいつ様子おかしい!さっさと発表見てしまえばこんなことからは解放されるんだが、今こいつやたらと歩くの遅いしな……。
ちなみに、今時はインターネットでも合格発表が見られる。やろうと思えばわざわざこんな所―――さほど遠いわけでもないが―――まで来てアナログの発表を見ずとも合否が判るわけだ。だがまぁそこはそれ、学が許さん。
「そんな無粋な真似をしたら怒るぞ」
とか言われた。何が無粋か、何のためのネット上発表だよ。なんて反論したところで、ネットは遠くて気軽に見に来れない人のための処置だとか、自分らは行ける距離なんだから行って見るのが大学に対する礼儀だとか言われそうだ。
このくそ真面目な性格、ちょっと矯正した方がいいかも知れんな。
「お前さ、そんなあがり症だから編入試験もスベってCクラス程度にしか入れなかったんじゃないか?」
一緒に勉強したり、テストの成績を見ていたら学は明らかにAクラスレベルの学力を持っている。それが編入試験でCクラスだと?冗談も程々にしてほしい。
「ああ、そうだ」
あっさり認めやがった。
「定期テストは大丈夫なんだが、編入も含めて入学試験の類はどうも慣れない」
「まぁ、慣れるほど受けるモンでもないしな」
「山下教官に訊けば、Cクラスにもギリギリだったそうだ」
山下先生は俺らの担任だ。下の名前は知らん。興味ない。
「マジかよ。試験の点数だけで言えば俺とお前は五十歩百歩だったわけか」
「そうなるな。進級時点でお前がCクラスで下の方だったかは判らないが、おそらくそうだろう」
「言ってくれるね」
「ただの事実だ」
腹は立たんがな、こいつだし。亮太だったら殺す。
いや、殺したら学に怒られそうだからな。七割くらい殺す。お前人のこと言えんのかって言いながら殴りまくってやる。
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