裏・俺の戯言

□半裏LIGHT JOKER〜文芸部の活動〜
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「…………ふぅ〜……」
しばらくタイピングして疲れたのか、笑華は背もたれにもたれてぐぐぐっと伸びをした。
「あら、皆さん帰ってらしたんですか」
周りには笑華以外の文芸部員がいた。製本作業をいそいそとやっている。
「中本ー、パソコン終わったんならこっちにまわしてくれ」
「あ、はい」
笑華は「夏色の吐息」をフロッピーに上書き保存して席を立った。
「私も製本やりますよ」
「お、じゃあ頼む」
他の部員と共に製本作業に勤しむ。部長はパソコンを使って表紙や背表紙、裏表紙のレイアウトやデザインなどを考えている。
それから雑談に花を咲かせつつ製本を続け、暗くなってきたあたりで部長が口を開いた。
「今日はそろそろ終わりにするかー」
「あ、部長、鍵は私が閉めておきます。まだ書きたいので」
「そうか?じゃあ頼むよ。遅くなりすぎないように帰れよ」
「はい」
部員が全員帰り、笑華だけが残された。フロッピーを挿入し、小説の続きを書くために保存していたデータを引っ張り出す。
「…………」
一文字も打つ前から笑華が立ち上がった。
『?』
「ちょっと……おトイレに」
『どちらだ』
「大きい方……って、何言わせるんですか」
笑華はドアを閉めてトイレに向かう。



「ふふふふーんふふふふーんふーん♪」
何故か上機嫌に鼻歌を歌いながら将士が廊下を歩いていた。
「ふふふふふーん……んー?」
将士はもう電気が消えてしまって暗い廊下の中、文芸部の部室だけ電気がついているのに気付いた。何も考えずに、無遠慮に扉を開ける。
「おーい生徒会長様が来てやっ……あれ」
誰もいない。鞄が一つ残っているのでまだ誰かが残っているだろうことは判ったが。
「お、パソコンついてんな。なになに……ん?笑華作の小説か。タイトルは……『夏色の吐息』?ふーん……」
将士はページをスクロールさせて中身を読み始める。





「お、圭、今日も自作弁当だな」
「まあな」
昼休みになってようやく起きた圭は、いつものように将士と一緒に同じ机で弁当を広げた。将士はコンビニ弁当だ。
「それ、くれ」
「お前のために作ってきたんじゃないんだぞ」
「いいじゃねーか」
「じゃ、お前のそのハンバーグ寄越せ」
「何!?ハンバーグ弁当からハンバーグとったら何が残るんだ!」
「白メシ」
「アホか!!」
言いつつ、将士の箸は圭の卵焼きに、圭の箸は将士のハンバーグにのびていた。そして次の瞬間。

カツン。

と、箸同士が接触した。
『あ……』
二人して顔を赤らめる圭と将士。
「ど、どうすんだよこの箸もう使えねぇじゃねぇか……」
「し、知るか。別に……気にすることねぇだろ……」
「え……っ」
「っ……いいから寄越せっ」
圭はさっさとハンバーグを将士の弁当から奪い取って食べてしまった。
「あ」
将士は圭が迷うことなく箸を口に運んだのを見て頬を赤く染めた。
「お……まえ……それ」
「なっ、何だよ」
「なんっ、何でもねぇよ!」





「…………何だこれ」
少し読んだだけで一気に顔面蒼白の将士。
でも、何故か続きが気になる。将士は一気に飛ばして先の方を読んでみることにした。





「圭……俺、もう自分の気持ちを抑えられそうにねぇよ……」
「将士……奇遇だな。俺もだよ……」
誰もいない第三校舎の屋上。二人はゆっくりと歩み寄り、手を取り合った。
もはや、言葉にする必要はなかった。お互いの気持ちはすでに伝わっている。
「圭」
「将士」
二人は目を閉じて顔を寄せ合い、そして





「……いかん。これ以上は読む勇気がない……」
まさか笑華が自分と自らの恋人をメインにしたBL小説を書いていたとは思ってもいなかった将士。顔色は悪いというか、もうヤバい領域だ。
将士が吐き気を我慢していると、背後で携帯を操作する気配がした。将士は恐怖しながら振り返る。
そこには、今までにない輝きを放つ作り笑いの笑華がいた。
「あら、部長……こんな所で何を?」
「いやあ、はは、生徒会長として見回りを……」
「そうですか、お疲れさまです」
「あぁ、ありがとう」
「部長」
「はいっ」
「残念です」
「……何が……?」
「読みましたね?」
「いやいや、何のことかさっぱり」
「読、み、ま、し、た、ね??」
「読みました」
笑華は最高の作り笑いを崩さない。
そして携帯の決定ボタンを押した。
「ああ、香織ですか?今日の晩ご飯は人肉のハンバーグにします。材料はこちらで調達しますので、では」
笑華は笑顔のまま、携帯を切った。
「じゃ、部長」
「…………!!」
「逝きましょうか♪」
「ぎゃああああぁぁぁー……!!」



中本邸にて。
「ソースは辛めがいいなー」




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