特設読み切りズ

□犬ごっこ
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アパートに謎の少女を連れ帰った玲二は、とりあえず何をすればいいか判らず、シャワーを浴びさせるべきか食事を与えるべきか、色々と考えを巡らせていた。
「あー……寒いか?」
おんぶして連れてきたのだが、背中に乗せている間も部屋に入ってからもずっと震えている。これは少々まずい。
玲二は別に寒くはなかったが、暖房をつけることにした。
「……腹、減ったか?」
「…………」
少女はこくんと頷いた。
「そっか。判った」
先ほどスーパーで買った食材で、二人分の食事をささっと作ってしまう。飲食店でのバイトで培った料理の腕は他人にも自慢できるレベルだ。
「ほら、食え」
皿に盛りつけ、スプーンと共にちゃぶ台の上に置く。冷蔵庫に僅かに残っていた食材と買ってきた物を合わせ、電子レンジで温めるタイプの白米を使って作った簡単なチャーハンだが、味付けが絶妙なためかなり美味しくできた。ダメな所といえば、少しご飯がべちゃっとしているくらいだ。しかしそれも、レンジで温めるタイプのものとは思えないほどパラパラにはなっていた。
「…………」
少女は「ホントにいいの?」という目で玲二を見てきた。
「いいから食えって。毒なんか入れてないから安心しろ」
少女は未だ震える手でスプーンを掴み、チャーハンを一口食べた。玲二はその様をじーっと見つめている。
「…………」
少女はスプーンをくわえたまま固まってしまった。
「おい、どうし―――」
その時少女は突然、固まったままボロボロと涙をこぼし始めた。
「な、何だ?何泣いてるんだよ?」
思わずうろたえてしまう。
しかし少女は玲二の言葉を無視し、絶えず涙を流しながらチャーハンを食べることに集中し始めた。
「……泣くほど美味いか……」
美味しくできたとは思うが、泣くほどではないだろう。自分で食べてもそう思う。



「ごちそーさん」
「…………ごちそうさま」
「へい、お粗末さんでした」
食べ終わり、ようやくある程度元気が出てきたのか、少女が口を開くようになってくれた。玲二は食器を流しに持って行き、ちゃぶ台に戻ってきて座った。
「まあ、色々と訊きたいことはあるんだが」
「…………」
「まだ寒いか?先にシャワーでも浴びるか?」
「…………?」
「別に遠慮しなくていいぞ。シャンプーも石鹸も安物だが好きに使っていい」
「……何で……?」
「は?」
「何で……私に、そんなに……」
「……さぁ、何でだろうな。自分でも判らんよ」
事実だった。女の子がこのような状況になることなどそうそうない。家出とかとも違うようだし、厄介であることは確実だ。わざわざ巻き込まれにいくなど正気ではない。
「ほら、体洗いたいだろ。覗かないから入ってこい。……あー、服はアレだ。少しでかいかも知れんが俺のを貸してやる」
「…………」
少女は無言で立ち上がり、毛布をまとったまま脱衣所に入っていった。



しばらくして、脱衣所のドアが開いた。
「?」
少しだけ顔を出して少女は玲二を見ている。
「どしたー?」
テレビから少女に視線を移して訊いてみた。服は置いておいたはずだ。
「……タオル……」
「ああ、忘れてた。ほらよ」
干していたタオルを渡す。少女は少しだけ開けたドアからタオルを受け取り、引っ込んでしまった。
「…………」
また少しすると、少女はぶかぶかのシャツを着て脱衣所から出てきた。
「やっぱでかいか。今洗濯してるからしばらくそれで我慢してくれ」
「…………!」
少女は急に顔を真っ赤に染めた。
「何だ?」
「…………」
顔を赤くしたままぷいっとそっぽを向いてしまう。
「ああ、下着か。しょうがないだろ、洗わなきゃ」
善意であることは少女にも判っている。故に怒ることもできなかった。
「まあ落ち着いたろ。座ってくれ」
言いながら玲二はリモコンでテレビを消した。
「…………」
少女は素直に座る。
「さて……何から訊いたらいいのやら。まず……名前、言えるか?」
「……飯村、美々」
「ミミね。俺は望月玲二。んで、ミミ。お前は何をしてたんだ?」
「…………」
「質問を変えるか。家はどこだ?」
「……ない……」
「…………。親は?」
「……いない……」
「何で」
「…………」
口数はやはり少ない。
「まぁいいや。じゃ歳は?」
「……十四歳」
「……学校は?」
「……行けなくなった……」
「そうか……」
事情は判らないが、親も家もないなら仕方ないだろう。どこかで拾った毛布をお供に、凍えながら過ごしてきたに違いない。
「どっか施設に住んでたのか?」
親も家もなければ、それが一番考えやすい。
「…………」
しかし、美々はふるふると首を振った。
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