特設読み切りズ

□犬ごっこ
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特に、素直で従順なところがそっくりだ。
「犬?お前んとこ犬よかったっけ」
「ダメですよ。だから、引き取り手を探して見つかるまで世話してやるんです」
これは事実だった。
「何なら俺が引き取ろうか」
「え!?」
「うちにはもう三匹いるし、一匹増えたって変わんねえよ」
「あ、いややめといた方がいいですって!あいつ部屋ん中荒らすし、デカくて力強いし!先輩んとこの犬は小型犬でしょ?」
「え、お前大型拾ったの」
「あー、まぁ犬として見ればデカいです……」
人間としては小柄だが。
「何言ってんだ?まぁいいや、じゃちょっと見るだけでも見せてくれよ」
「えーとね、えーとね、やめた方がいいです」
「何で?見るくらいいいじゃん」
(ええい、しつこいな!)
犬好きの先輩に犬を拾ったなどと言ってしまったのが間違いだった。
「大家さんにバレたら厄介だから下手にドアを開けたらダメなんです」
「チラッと見るだけだから……」
「お願いやめて……」
もはや懇願である。
「えぁ?ああ、まぁそこまで嫌がるなら見なくてもいいけど……」
「どうも……」
安易に犬を拾ったとは言わない方がよさそうだ。



本日のバイトが終了し、玲二は帰路に就いていた。
(……しかしゴミの日を教えたはいいが、部屋を出てもらっちゃ困るんだよな。まぁゴミ出しくらい自分でやるか……)
そんなに手間もかからないし、今までは家事も全て一人でやってきたのだ。住人が一人増えたくらいでは料理や洗濯の量が少し増えるだけで、経済面以外では何も問題ない。
考えながら歩き、部屋に着いた。もう夜なので、美々に病人食も作ってやらねばならない。鍵を開けてドアを引く。
「ただいま」
玲二が言うと、美々は出会った時と全く同じ格好で玄関まで来た。
「何だよ、もう立っても大丈夫なのか?」
「…………」
美々は頷く。
「んー、まぁ昨日はメシ食ったしな。アレ泣きながら食ってたろ。そんな美味かったか?」
「…………」
また頷いた。
「まさか食ってなかったのか。どのくらい何も食べてなかったんだ?」
「……三日くらい……」
「……そりゃ泣くわ……」
もはや驚きを通り越して呆れてしまう。
「てか、その毛布は何で羽織ってんの?部屋、寒いか?」
最初に着ていた服に着替えるのはともかく、毛布はいらないだろう。
「…………」
美々は首を横に振った。
「じゃ何で」
「……仲間……」
「ん?」
「……どんな時も、私を温めてくれた……」
愛着がわいているようだ。
「ま、いいや」
玄関で立ち話も何なので、居間に入る。
「さて、何か作るか」
「……私がやる……」
「は?いいよ病み上がりだろ」
「……大丈夫……」
「……じゃあ……頼むわ。メニューも任せる」
「…………」
美々は少し目を輝かせて頷いた。
「じゃ、俺は……」
美々が調理をしている間、パソコンを使って美々を引き取ってくれそうな施設を探してみた。しかしどの施設も経済的に非常に厳しいらしく、新たに引き取ることはできなさそうだ。
「後で直接電話して訊いてみるかな……」
意外と骨が折れそうな作業だった。
「……できた……」
「お、できたか」
ちゃぶ台を見ると、綺麗に料理が配膳されている。そう、配膳は綺麗だった。
「……ミミさん、これ、何スか」
「……だし巻き……」
何やら謎の物体が皿に乗っかっていた。とても食べ物とは思えない。
「……うん、まぁ……食うか」
「…………」
美々は頷く。
このだし巻き―――らしき物―――を食べるのは少しばかり勇気が要る。どうすればこんな風にできるのかが不思議なくらいだ。まるでマンガである。
「…………」
美々は何やら期待するように玲二を見ている。
(……ええい、ままよ!)
思い切って食べてみた。
「……何じゃこりゃ……。美味いじゃんか……」
これもまた不思議だ。見た目がこれだけ悪いのに味はいいとは一体どうなっているのか。
「…………」
美々はほっとしたように自分も料理に箸をつけた。美味しいらしく、食は進む。
「暇だったか?」
「…………」
首を横に振る。
「そっか」
「……掃除してた……」
「マジか」
言われてみれば、部屋が幾分綺麗になっている。
「無理するなよ。病み上がりなんだから」
「…………」
頷く。
「しかしお前、怖いとは思わんのか?」
「…………?」
「俺は男だぞ。襲われるかもとか考えないわけ?」
「…………」
首を横に振る。
「……まぁ、そんなつもりないけど。少しは警戒してもよさそうだと思っただけだ」
実の所、美々の容姿は悪くはなかった。むしろ可愛いと断言できる。最初は心身共にボロボロで見るに耐えなかったが、顔色が良くなるとそれはなかなかの美人だった。
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