特設読み切りズ

□差し出された手を掴む時
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「おお、コレは我ながらいい考えだな!それだ、一度やってみればきっと楽しさが判るはずだ。よし、やれ!」
「アホかお前……」
もはや思考回路がどうなってんのか判んねぇぞ。
「何でそんなに俺にやらせようとするんだよ」
「その高校生離れした長い手足に高い背丈、無駄がない筋肉質な体……他のクラブに取られてしまう前にサッカー部に入ってもらわないと―――」
帰るか。えーっと、今何時だ?一刻も早くコンビニ行かないとマジで売り切れちまうっての。手に入んなかったらどうしてくれんだ。
「待たんかい」
「ぐうぇ」
襟首を捕まれた。
「いい加減にしろ!」
「はっはっは、その元気も大事な資質だぞ!ますます欲しくなった!」
「お前の意志どうこうじゃないんだよ、俺がやりたくねーの!」
「ほら、これが入部届だ。書いて明日持って来い。いきなり用意するのは色々難しいかも知れないから、試合の時はスパイクとかユニフォームは部活から貸し―――」
「だぁーっ、このアホ!」
俺は入部届を奪い取って破り捨てた。強引すぎる。こんな部活勧誘があっていいのか?ほとんど強制じゃないか。
「…………」
堀口は破られた入部届を見ながら呆然としている。やりすぎたか……?でもこいつも悪いだろ……。
「っ」
「!!」
やべ、こいつ、泣い……!?
「〜っ、ま、まだ……」
目に涙をいっぱいためながら、何とか持ちこたえている。健気な奴だ……。
「まだ、入部届はあるから……。入ってくれないか……」
「嫌なモンは嫌だ」
泣き落としか。狡い手だが俺には通じないぞ。
「頼む、オレ達と一緒に頑張ってくれ」
「……何なんだよお前。何か理由があるんなら言ってみろ」
こんな切羽詰まってるなら、きっと事情があるんだろう。理由如何によっては、話を聞いてやらんこともない。
「何でもない。ただ、一緒に楽しみたいだけなんだ。本当だ」
「……バカが。向いてないんだからバレバレの嘘なんかつくんじゃねーよ」
「う……」
あー、もう。まったくこの女は、男勝りで強引なくせに泣き虫だな。
「泣くなって」
「泣いてない!」
まぁ、ギリギリな。九割九分は泣いてる。
「帰るよ」
「……考えておいてくれ。入部届は用意しておく」
「はいはい」
俺は手をひらひらと振ってそのままグラウンドを後にした。



結局昨日は週刊誌を買って帰る気にもなれずに、家でモヤモヤした気持ちを抱えながらゴロゴロしていた。
「おはよう、早坂。さあ、サッカー部に入ろう!」
「入らんと言ったら入らん!」
立ち直るの早いな!昨日の今日だぞ?
「何でそんなに嫌がるんだ?」
「めんどいんだよ!金もかかるし!」
「それを補って余りあるほど、楽しいぞ!」
「俺は今のままで充分満足してんの。これ以上楽しくならんでいい」
俺は自由でいたいからな。部活で自分の時間を削られるなんてたまったもんじゃない。
「考えておいてくれと言ったのに」
「考えた結果、入らんと決めた」
「いけずだなぁ。ひねくれてるなぁ」
「それで結構。俺はやらない」
「気が変わったら言ってくれ。枠は空いてるから」
「ああ」
やらんけどな。断じて。



「授業中は退屈そうだな」
「あんなモン面白がって受ける奴いないだろ」
「そんな毎日には刺激が必要だよな」
「そうかもな」
「サッカーがおすすめだ」
「そりゃいい。他の奴にすすめてこい」



「食堂は安くてボリューム満点だ」
「激しく同意する」
「体力もつくぞ」
「だな」
「サッカーをやるしかないな」
「お前がやっとけ」



「面白そうなマンガだな」
「ああ」
「もっと面白いものがあるぞ」
「興味深い」
「サッカーだ」
「最高だな。勝手に頑張ってろ」



「今日は遅いな」
「ちょっと寝坊したんだ」
「なるほど。そこで提案だ」
「何だ?」
「サッカーをしよう」
「もはや脈絡がないんだが」



もう何なんだあいつは毎日毎日……。いい加減うんざりだぜ。ノイローゼになっちまいそうだ。
「翔、早坂翔」
「…………何だ堀口美星」
「移動教室だぞ。早く行かないと間に合わない」
「そうだな。行くか」
教科書とノートと筆記用具を持って教室を出る。化学実験室はどっちだったかな。滅多に使わんから場所なんか覚えてない。
「こっちこっち」
「おお、そっちか」
よく覚えてんな。
「さてと、サッカーの話だが」
「よく判った。判ったからもう口を開くな」
「入ってくれるのか!?」
「だ、ま、れ、と言ってる。入るわけあるかバカ野郎」
「……何で入ってくれないんだ……こんなに誘ってるのに……」
こんなに誘ってるから逆に入らないんだろうが。やっぱ頭弱い子だな。
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