特設読み切りズ

□差し出された手を掴む時
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「しつこいんだよお前は。押して駄目なら何とやらって言葉を知らんのか」
「引いたら入ってくれるのか」
「愚問だな」
「そうだろ。だったら押して押せだっ!」
ぐっ、とガッツポーズを作る堀口。気合いとやる気は認めるが、何と言おうと俺はサッカーなどやらない。
「まぁ、せいぜい頑張れよ。俺じゃなきゃ折れる奴もいるかも知れん」
「お前は折れないのか」
「折れん。断じて折れんぞ」
「モテるぞ」
「…………」
アホか。
「サッカーがバリバリできればそりゃもうモテモテだぞ!サッカー青年は格好いい!少なくともオレは大好きだ」
「別にお前に好かれたかね、え、よ」
「何だよぅ女の子に好かれて嬉しくないのか?」
「お前じゃなきゃ嬉しいかもな」
「ひどいな……」
まぁ、面白い奴だとは思えるけどな。感情の起伏が激しくて見ていて楽しい。いじり倒して遊びたくなる。ただ、女としては微妙だ。つーか、一人称が「オレ」ってどうなんだ。
「とりあえずさ、他にサッカーやりたい奴くらいいるだろ。そーゆー奴誘えよ」
「オレはお前がいいんだ。その体に惚れた」
「誤解を招くようなことを言うな!」
そんなこんなで教室に到着。授業中はこいつから解放されるから楽だ。ここ最近授業中の方が気が休まるぜ。意味判んねー。
「ふぅ……」
安心して指定されている席に座る。
「何だため息なんかついちゃってよ」
隣に座っているツレが話しかけてきた。
「知ってんだろ、ストーカーもどきに悩まされてんだよ」
「くはー、贅沢言いやがっててめェは。堀口って割と男子から人気あるんだぜ?」
「はぁ?何であんなんが?」
「ちっこくってちょこまかしてて、小動物的な可愛さがあるんだよ。守ってやりてー、みたいな」
「納得いかねーな。あんなオレオレ女」
「そこもプラスに取る奴はプラスに取る。ボーイッシュだっつってな」
「アホか。何たらは盲目ってやつだな」
「それに、何事にも一生懸命じゃんあいつ。結果に結びついてるかは別にして」
「それは認める」
確かに、あそこまで一直線な性格は稀だ。だが、その突進先に選ばれた側としてはたまったモンじゃない。
「つーか、なんで堀口が今の時期に部員探してるか知らねェのか?」
「あ?」
そう言えば今は六月の下旬だ。今部員の補充なんか普通はしない。そりゃ部員は多いに越したことはないけど、常に部員を探してるわけでもないだろう……。
「実はさ、聞いた話なんだが―――」



………………。
…………。
……。



「翔、放課後になったぞ。サッカーをしに行こう」
また来やがった。飽きないな、こいつも……。
「……いつ名前で呼ぶ許可を出した」
「許可がいるのか?」
「いきなり名前で呼ばれたら何かアレだろ」
「アレって何だ」
「アレだよ。何かこう……アレなんだよ!」
「判らんぞ」
「美星」
「っっ!?」
顔を真っ赤にして言葉に詰まる堀口。……いかん、俺としたことがちょっと可愛いと思ってしまった。
「これは……確かに、何かアレだな」
「だろ」
「そこで提案なんだが」
「はぁー……」
全く、何なんだよこいつは。あれだけやらんと言ったのに、まだ誘うつもりか。頭おかしいだろ。
「出せ」
「え?」
「入部届だよ、いいから出せ!」
「え、え!?」
「だーかーら、入ってやるっつってんの!」
「ほ、ホントか!?何で!?」
「お前がしつこいからだよ!」
根負けってやつだな。まぁ、意地張ってたらいつまでも付きまとわれそうで怖いしウザいし、しょうがない。
「あ、ありがとう!これが入部届だ」
「おう」
俺は入部届を受け取り、既にサッカー部と記入されていた入部希望部の欄を無視してクラスと出席番号と名前をざっと書き込んで堀口に返した。
「出しといてくれ。俺は誰に渡しゃいいのか知らん」
「あ、ああ、任せておけ!」
「じゃ、行くか」
「えっ?」
「……サッカーやりに、グラウンド行くぞ」
「……!」
目と表情が一気に輝く。色々楽しくて忙しい奴だな。
「ああ、行こう!」
俺は鞄を持って、教室を出た。



堀口が入部届を出すのを職員室の前で待って、それから二人で部室へ向かった。俺のロッカーはもちろんまだないから、とりあえず適当に鞄を置いて体操着に着替えてグラウンドへ。
「皆ー!ちょっと来てくれー!」
練習中の部員を堀口が呼び集める。たった一声で全員来るんだから、割と人望はあるんだな。
「こいつ、オレのクラスメートの早坂翔だ。今日からサッカー部の一員だ。皆よろしく頼む」
「えーっと……二年の早坂です。よろしく」
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