特設読み切りズ

□星の神子
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「参ったな……」
今の季節は夏の終わりあたり。まだまだ山や森には虫が多い。寝袋でガードしようにも顔はどうにもならない。
「屋内で寝られたら……せめて蚊帳でもありゃなぁ……」
考えながら歩いていると、何かを振る音とかけ声が聞こえてきた。
「何だ暑苦しいな……」
音のする方に向かい、暗い中目を凝らしてみると、どうやら誰かが竹刀を振っている。ガタイのいい少年だ。これまた、武とそう歳は離れていないように見える。
「はっ!!はっ!!」
飛び散る汗。本人は爽やかな汗を流しているつもりかも知れないが、周りにとっては暑苦しいだけである。
「誰だ!」
(うお、気付かれた!?)
物音を立てたつもりはなかったが、達人には気配で判るらしい。別に悪いことはしていないので、武はすぐに顔を出す。
「見ない顔だな」
「あ、ああ。まぁな……あ、そうだ」
「悪いがお断りだ」
「まだ何も言ってねーし」
「見たところ旅人のようだからな。泊めろと言うのだろう。うちは無理だ」
「はぁ……そうかい……。じゃ、剣道頑張れよ……」
「う、うむ」
武はまた肩を落とし、少年の前から去った。
「……頑張っても、戦える相手がいないのではな」
少年はまた竹刀の素振りを始めた。



「この際廃屋でもいいからないかなー。野宿は嫌だ……」
もうかなり望み薄だが、何かないかと武は歩く。
「あ、そうだ」
そう言えば、村に着いた時に祠のような寺のような建物を見つけた。あそこならばまともに眠れそうである。
「布団もないが、野宿よりはマシだろ……」
来た道を戻り、程なく祠にたどり着く。
「意外とでかいかも」
近寄ってみて気付いたが、大きさはそれなりにある。大きくはないが、人一人が寝るには広すぎるくらいの広さはあった。
「お邪魔しまーっす……」
正面の引き戸を開け進入。人の気配はない。
「誰かいませんかー」
返事はない。
武は荷物から懐中電灯を取り出し、つけてみた。物は少ないが、地味に生活感がある。お菓子の空き袋などが少し散乱している。
「不良かなんかがたむろしてたのかな」
散らかっている中で寝るのもいい気分はしないので片づけることにした。空き袋のあたりに行こうとして、何かが足に引っかかる。
「うおっと」
足下は見ていなかった。何かと思い懐中電灯を下に向ける。
「ほっ!?」
人だった。思わず変な声をあげてしまう。巫女服を着た小柄な女の子がうつ伏せになって倒れている。
「……生きてる……よな?」
しゃがんでほっぺをつんつんとつついてみる。
「……むにゃ」
「おお」
少し安心した。あのお菓子の空き袋はこの子が食べた跡だろうか。
「ええ……美佳ちゃん、もうご飯の時間ですかぁ……?」
「は?」
(……寝ぼけてやがる)
どうやら武を「美佳ちゃん」とやらと勘違いしているようだ。
「起きろ」
懐中電灯の光を直接顔に当ててやる。
「にゃっ!?眩し……!」
「目、覚めたか」
「ふえ……?あれ、美佳ちゃんじゃありません……どなたですか?」
「通りすがりの旅人だ」
「はあ、タビビトさん……ですか。タビが名字で、ビトがお名前ですか?珍しいですね!」
「…………」
天然なのか、まだ寝ぼけているのか、はたまたバカにしているのか。武はまたも言葉を失うしかなかった。
「そんなワケないだろ。旅をする人を旅人っつーんだよ」
「そうですか。ではタビビトさんは旅をなさってるんですね」
「そういうことだ」
一応理解は早いが、常識がなさすぎる。旅という単語も知らないような人間がこの世の中にいるものなのか。
「して、旅とは何なのですか?」
舌っ足らずな口調で無邪気に問うてくる。武のことを全く警戒していない。
「いろんな所を見て回るのさ。俺は日本だけだが、凄い人になると世界を旅してることもある」
「色々な所に行くのが旅なのですか。では、タビビトさんはこの村の方ではないのですね」
「あ、ああ……まあな」
このような小さな村で、村人全員を把握していない人がいるというのには割と驚いた。このような村はもはや村自体が一つの家族のようなもののはずだ。
「あ、そんでな、頼みがあるんだが」
この祠が彼女の物かは判らないが、一応泊まる許可を誰でもいいのでもらっておきたい。
「はい。お告げですね?」
「オツゲ?」
「違うのですか。あ、タビビトさんはこの村の方ではないんでした。では、頼みとは何でしょう?」
「ああ……実は寝るとこがなくてさ。今日、この祠に泊まってもいいか?」
「そうですね……いいですよ」
「本当か!助かる!」
「ただし条件があります」
「何だ?」
泊めてもらえるなら、中の掃除でも何でもするつもりだ。
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