特設読み切りズ

□追いかけた先で掴むモノ
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「降ろして」
さっきから偉そうな奴だなまったく。まぁいい。お姫様は満足なさったみたいだからな。
滑り台から降りて女の子を降ろす。伏し目がちだが、目つきが悪いわけじゃない。少し茶色がかった黒髪のボブカット。うん、普通にしてりゃ確かにどこにでもいる女の子だ。目鼻立ちも整ってるし、可愛らしいじゃないか。
「どうだったんだ?」
「……届かない」
「そうか」
届こうが届くまいが俺には関係ない。もう腹が減ってしょうがないんだ。
「じゃあな。頑張れよ」
言い残して、さっさとその場を去る。コンビニに直行だ。



この町で、一番高い所は、どこだろう。
向こう側に届く場所は、どこだろう。
この町には、初めて来た。ここだったら、見つかるかも知れない。届く場所。
学校もない。一日中、いろんな所をまわって、届く場所を捜せる。
朝から捜す。歩き回っては手を伸ばしてみる。
届かない。
……悲しくない。まだ大丈夫。この町はそんなに狭くない。見つからないと決まったわけじゃない。
……公園だ。ここは……うん。いいかも知れない。お砂場でお山を作って、上に乗ってみる。
……届かない。
まだだめみたい。うーん……あ。
滑り台だ。ちょっと高い。届くかも。
登ってみた。
……届かない。
もっと高くないとだめ。ちょっと足りてない。どうしようかな、もうこの公園は無理かな……。
あ、何か男の人がこっちを見てる。いいかも。背、高いし。
手招きで呼ぶ。ちょっとキョロキョロして、自分を指さした。……他に誰がいるんだろう。頷く。
嫌そう、っていうか、しまった、って感じの顔をしてからこっちに来た。かやのは滑り台を滑って降りて、お兄さんの側に立ってみる。
うん、やっぱり高い。
「……どうしたんだ?」
……言っても、判ってもらえそうにないけど。
「……届かない」
「は?」
やっぱり。もういいや。手伝ってさえもらえたら、何も判ってなくてもいい。
「お兄さん、背、高い」
「届かないって、何にだ?」
……無視された。あれ……あ、無視したのはかやのだ。お兄さん、かやのの話に興味を持ってくれた。じゃあ、答えよう。かやののお願い、聞いて欲しいから。
「向こう側……」
「何の」
向こう側は向こう側。これ以上話しても……無駄かな。
「しゃがんで」
ちょっとだけ付き合ってもらうだけだから。
「へ?」

「……?……かがんで」
しゃがむって、方言だったかな。
「これでいいか?」
お願い、聞いてくれるんだ。かやのが言った通り、しゃがんで……かがんでくれた。
背中の方にまわって、よじ登る。大きな背中。登りがいがある。
よいしょっと……足を肩にかけて、頭に手を乗せる。これなら、立ってもらったらだいぶ高いかも。
「立って」
「……はいはい」
やった。高い。でも、まだ高い方がいい。あ、そうだ。
「登って」
「ん?」
「滑り台」
かやのを落とさないように気を遣ってくれてるのか、ゆっくり登ってくれる。
「登ったぞ」
「ん」
とても高い。これなら、届くかも。
「…………」
だめだ……届かない。まだちょっと足りてないみたい。
……どうしようかな。とりあえず、このまま試しても意味ないし降ろしてもらおう。
「降ろして」
お兄さんは登ってきたところから、さっきと同じようにゆっくり降りて、かやのの腰を持って地面に降ろしてくれた。
すごい。いいお兄さんだ。かやののお願い聞いてくれた。
「どうだったんだ?」
その質問には……いい答えを返せない。いいお兄さんに言うのは嫌だけど、嘘はもっと嫌。
「……届かない」
正直に答えた。
「そうか」
お兄さんは短い言葉で返してきた。それほどがっかりした感じじゃないかな。かやのはとってもがっかりだけど。
「じゃあな。頑張れよ」
そう言って、お兄さんは手をひらひらさせて行っちゃった。ごめん、お兄さん。かやの、お兄さんに協力してもらっても届かなかった。
でも、お兄さんが言った通り、かやのは頑張る。いつかきっと、向こう側に届かせてみせる。届いたら、協力してくれたお礼に、お兄さんにも届く場所を教えてあげるね。
次は……どこに行こうかな。



うひ〜、コンビニってのは最高だなこの空調が。2、3時間立ち読みして行きたい気分だ。
でもまぁそんなことしたら腹と背中がくっついちまう。おにぎりとかサンドイッチでも買って、食いながら帰ろう。帰ったらパソコン立ち上げて、ちょっとネットサーフィンでもしてみるか。あ、そういや友達に勧められて導入したゲームがあったっけ。二ヶ月くらい放置してたからどこまでいったかも覚えてないけど、それをやってもいいな。
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