特設読み切りズ

□頭ではなく、心に残る記憶
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「姉さん」
「何かな京太君」
「大丈夫だよ」
「あはは、どうしたの?京太もおかしいんじゃない?」
何だか、言っておきたくなったから。一人暮らしも、学校のことも、他のいろんなことも。僕だって、もう子供じゃない。姉さんに心配してもらわなくたって、ちゃんとやっていける。
「よしっ。じゃあ帰ろうかなっ」
「え、もう?」
「うん、今の京太の言葉を聞いたからお姉さん安心して帰れるよ!」
そう言って、持ってきた荷物をまた持って姉さんは部屋の出口に向かう。
「待って」
「ん?」
「結局、その荷物何なの?もう話してくれてもいいよね」
きっと舞人や翔太も気になってただろう。僕と二人になろうとしたってことは、二人になったら開けるものだとばかり思っていたけど、違うみたいだし。
「んー……えっとね」
「うん」
「……お昼ご飯」
「…………え?」
今、何て言った?
「朝」
「うん?」
「男の子が三人もいて、しかも二人は舞人と翔太でしょ?だから朝、お昼ご飯ちゃんと足りるようにいっぱい……」
「いっぱい?」
「おにぎりを握ってきたの」
「…………」
あちゃー……。そっか、だから来るの遅れちゃったんだなぁ……。
「何で言ってくれなかったの?」
「だって、もうピザ頼んだって言ってたじゃん」
今の姉さんは残念そうな苦笑、というのがぴったり当てはまりそうな表情。無理もないよね、一生懸命作ったのに食べてもらえなかったんだし……。
「あはは、バカみたいだよね私。一人で勝手に頑張って空回りしてさ。ごめんね、じゃ私―――」
「待ってよ」
さっさと帰ろうとする姉さんの腕を掴む。
「置いていって。食べるから」
驚いたように姉さんは僕を見る。
「…………うん」
姉さんは荷物をそのまま僕に渡す。僕はちゃぶ台みたいなテーブルみたいな机にそれを置いて、また玄関に戻る。
「駅まで送るよ」
「うん」
部屋を出て鍵を閉め、駅に向かって歩き出す。
実はこの町から地元までは電車一本で行き来できる。どっちもそこそこ都会で特急や急行が止まるから、意外と気軽に帰ったりもできる。
でも僕のアパートから駅まではちょっとあるから、姉さんの歩幅を考えるとたぶん急いでも先に行った翔太と舞人には追いつけないだろう。
「この町、地元より広いよね」
「そうだね。いろんな所に公園もあるし」
「こりゃホントに案内が必要だね。次来るのが楽しみ!」
僕がおにぎりを受け取ったことが嬉しいのか、姉さんはいつも通りに明るい。
公園を過ぎて、ちょっと歩くと駅に着く。入り口に書いてある名前を見ると、その公園は猫の子公園というらしい。
ホームに入るには切符を買わなきゃいけないから、僕は改札の手前までの見送り。
「またね」
「うん。また連絡するよ」
「うん」
「舞人と翔太、いないね」
「そうね。特急結構多いから」
姉さんの言う通り、特急はそこそこ多い。十分と少し待てば、次の特急が来るようだ。
「あ、来た」
雑談してたら、十分なんてすぐだ。特急が止まって、姉さんは急いで改札を抜けて乗り込む。
中から手を振ってきたから、僕も振る。
……あれ?
何か……変な感じ。
おかしい。長いお別れじゃないはずなのに。
すぐに慣れる。今時、一人暮らしなんて珍しくもない。
でも、何かが違う。
寂しい、とは違う。そりゃ、寂しくもあるけど。それだけじゃない。
そんなことを考えているうちに、電車は出て行く。何だったんだろう、あの感じは……。



特急が出てからしばらくしても、京太はそこに立っていた。違和感の正体を考えているようだ。
結局その正体は判らないまま、京太はきびすを返して帰路につく。
「!」
駅の入り口から、子供が京太を見ていた。じーっと、まばたき一つせず。
京太が近づいても表情や視線が変わらないので、別の人を見ているのかとも思っていたが、横を通り過ぎる時にその子供は言った。
「未練は、あなた」
「え?」
驚いて京太が横を見ると、すでにその子供はいなくなっていた。
「…………?」
気のせいかとも思うが、確かに聞こえた言葉や先ほどの妙な違和感もあり、どうにも疑いきれずにいた。
京太はゆっくりとした歩調で、顎に手を当てて色々考えながら部屋に戻る。
「…………」
部屋に戻ってテレビを観たり、パソコンの設定をしたりしている時もずっと妙な違和感と子供の言葉が頭をよぎり、いまいち集中できないでいる。
「……お腹減ったかな」
郁美が置いていったおにぎりを手に取り、テレビを観ながら食べる。
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