長編1

□5th
4ページ/5ページ




あの後夕飯を済ませて自分の部屋に戻ると、カーテンを閉め忘れた窓からは薄い月灯りもなくて、
真っ暗な外の様子がわかった。



窓に近づき見上げると、やっぱり雲が厚くて広がっていて、七夕の星空はお預けみたいやった。


別に、何か思い入れがあるっていう訳じゃないねんけど
いつもよりたくさん見える星を見てると、なんだか特別に思えて
願い事も叶いそうな気がしてくるんやもん。









―…ガラガラ






窓の側に立ったまま
電気も点けずにボーッとしていたら、扉が開く音がしてハッとした。


ベランダに続くその窓を開けて出ると、開いたのは春人の部屋の窓だったみたいで
昼間と同じように手すりに寄りかかる春人がいた。





「春人?」

「ん?どうしたん?」

「いや、音聞こえたから」



そうか、って言う春人の隣に立って雲ばかりの空を見上げながら
晴れる訳がないってわかってるけど、ちょっと寂しいな。なんて思ったりして。




「なんでそんな落ちてんの?」

「え?」




「そんなに星見たかったん?」

「…うーん、」

「?」

「なんかな、…なんか寂しいねん」



ここで、なんでや。って理由を聞かれても自分でもわからへんから困るねんけどな。
考えても考えても
答えは見つかりそうにあらへん。



そんな風に一人で悶々としてると、左手にふと感じた手の感触はもちろん春人のもので、


何も言わずに繋いでくれた手がすごく愛しくて

繋がった指先から伝わる温かさに、じーんと来た。


この温もりはずっとなくしたくないな。って


改めてそう思った。




「…ありがとぉ」


照れ臭かったけど、少しでもこの気持ちを伝えたくて、そう言うと
こっちを向いた春人は少し心配そうな顔をしていた。



「あんま考えすぎんなや?」

「うん、そんな心配せんくてええよ。」




こんな風に勝手に寂しくなって助けを求めてしまう、気まぐれな私にも、愛想尽かさずにずっと側に居てくれるから
ほんまに感謝してるんやで?


これからも、


できればずっと一緒にいたいって思ってるし。




次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ