行きたいとこは?
【忍:小話】
窓から差し込む光が茜色に変わり、少し肌寒さが漂う夕暮れ時。
夕食の用意を始めていると、メガネをかけていない忍さんがダイニングに入ってきた。
三日間自分の部屋に軟禁状態だったせいか、心なしかやつれて顔色が悪い。
あたしは、あったかいミルクティーを忍さんに差し出す。
ふらふらになりながらも手を出し、一口二口と飲みすすめていく。
『…思うんですけど、忍さんって大体家にいるんですよね? 外に出たいなぁ〜とか思ったりしません?』
「んー、まぁもともと出無精だからね。このシゴトには持って来いのタイプだと思うよ。それに外出しちゃうと金使っちゃうし…」
『あー、それはありますよね』
「だから、家でシゴトしてる方が楽だね」
『でも、少しは外に出なきゃダメですよー。太陽の光を浴びないと成長しませんよ?』
「これ以上成長ねぇ…」
頬杖をつきながら、なにかを考え込むような仕草を見せる。
あたしは夕食の準備に戻ろうと立ち上がると、服の裾を引っ張られた。
『…わっ!』
「今思いついた、外に出て亜紗子ちゃんと一緒に行きたい場所」
『…どこですか?』
「ちょっと耳かして…」
『…?…』
「………」
『!?』
「そこに二人で行きたい」
『―――っ、なっ!…な、そんなとこ、また部屋に閉じこもるようなとこだし、お金だってかかるし、第一忍さんとは行きません!』
「えーっ!じゃあ誰といくわけ?…ねぇ誰?」
『誰とも行きませんっ!』
あたしの叫びを最後に、忍さんは服から手を離す。
この日の夕食、忍さんだけコロッケの数が少なくなったのは言うまでもない。
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