雨乞い

□あめのちはれ
1ページ/1ページ

傘で隠れた君

ねぇ、何をそんなに恐れるの?

ほら、雨は上がった

傘をたたんで?顔を上げて。

此の綺麗な空

きっと君は笑顔になれる。



あめのちはれ






小雨の降る夕方。
雲が敷き詰められた空を何度繰り返し仰ぎ見ても、
太陽は一向に姿を現さない。

ジメジメした外の雰囲気と、モヤモヤした心境。
此の二つが、余計機嫌を悪くした。



途中で見つけた水溜りを覗き込んだって、不機嫌な自分の顔が映るだけ。
背景に、少しだけ曇り空が一緒になって映っていた。
時々思い出す、幼い記憶の中の雨の日々。
日の光なんて、いつも夢や幻だと思っていた。

私を照らしていたのは、いつだって

月の光だけ

それ以外の光など存在しない。


私は雨はあまり好きじゃない。
昔の寂しい記憶を思い出してしまうし、何より光が無い。
月の光も、暖かい日の光も。
全て綺麗なものを覆い隠してしまうから。

でも、日差しの中では生きれない。
だから私は日陰の中。
だから私は傘の中。

傘の中でずっと、顔も上げずに地面ばかり見て。
水溜りを覗き込んで、浴びる事のない日差しに目を背けた。

だって、こうでもしないと私は望んでしまうから。

そんな事を考えていたら、道行く誰かにぶつかってしまった。

「痛っ!」

ぶつかった反動で私は尻餅をついた。

今日はなんて最悪な日だろう。
心ひそかにそう思った。

「大丈夫かィ?悪かったねィ、ちょっと余所見しちまってて・・・ホラ、摑まって。」

頭上で謝る声を聞いて、顔を上げた。


―――---・・嘘、何で?

雨は、上がっていた。
さっきまでずっと、降っていなかっただろうか?

何時までも見上げる私を不振に思ったのか、呼び止められた。

「だ、大丈夫アル。一人で立てるネ。」

差し出された手を取らずに立ち上がり、傘を持ち直した。

天気にも、ぶつかった事にも対して、何故か動揺していた。
声が震えそうになるのを必死に堪えたけど、如何聞こえたのだろう?
其れがまず気になった。

「あのさァ、一つだけ聞いてもいいですかィ?」

「何ヨ?私何か変な事したアルカ?」

「したっていうか、現在進行形でしてるんだけどねィ?」

「だから、何・・・「傘。」

「え?」

ドクン、  其処で心臓が鳴った。

「雨は上がっただろィ?何で何時までも差してるんでさァ?
しかも何時までも下を向いてたらまたぶつかっちまうぜィ。」
「仕方ないアル、私日の光には弱いネ。」

そう、本当は傘なんて今すぐ閉じて自由に駆け回りたい。
沢山光を浴びて、明るい空の下・・・・生きたい。

「そりゃ悪かったねィ、でもだからってこんな晴れている日に地面とにらめっこなんていけねェや。」

そう言って、その男は笑い掛けた。

見上げた空はとても澄み切っていて今まで見てきた中で、一番綺麗だと思った。

傘の中で蹲っていた私はそのときの彼によって、導かれた。

「今のアンタなら、きっと大丈夫でさァ。だって笑えてるんだから。」
「え・・・。」
「じゃあさいなら。もうぶつかるんじゃねェよォ。」

そして私に背を向けて、人ごみの中へと消えていった。




恐れるものは何も無い。


只其処にあったのは、嘘みたいに綺麗な空と。


笑顔の私。






傘の中から覗く太陽も、あの空も。
今では私の大好きな風景。






雨のち晴れ



f・・

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ