雨乞い

□月明かりの下
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月明かりに照らせれた縁側に一過ぎの煙が立ち昇る。
そこには黒髪の男が一人、煙草を吸って月を見上げて感慨にふけっていた。
キシ・・・と床の軋む音がし、男は振り返る。
その男の後ろには、色素の薄い色の髪の少年が立っていた。
「何だ、総悟か。如何したんだ、こんな夜更けに?」
「それはアンタも一緒だろィ?土方さん。」
総悟は言い返すと土方の隣に座った。
「土方さん。俺ァどうやら土方さんの事が好きみてェでさァ。」
総悟の言葉に対し、土方はフッと笑うと、
「俺もだ」
簡潔に返事を返した。
「これからでかい戦が起こるらしいですねィ。」
「らしいな」
総悟の言葉に土方は短い相づちを打ちながら、ゆっくりと煙を吐き出す。
「その時は・・・」
そこで総悟は言葉を切る。
「なんだ?」
気になった土方が訊いた。
「その時は、アンタがやられそうになっても、
 俺ァ庇いませんぜ。」
「普通逆じゃねェか?」
思わず突っ込んでしまう土方。
しかし総悟はそんなことは気にせずに続ける。
「だって、俺が土方さんを庇って死んじまったら、
 アンタはきっと怒りますからねィ」
「かもな」
そこで土方は総悟を真っ直ぐに見る。
ぶつかり合う視線。
「俺が死んだら、その後絶対にアンタは自分を責めるでしょう?」
「まァな」
「アンタはクソ真面目だから、自分がどうしても赦せねェ」
「かもな」
総悟はフッと表情を緩め、
「何もかも自分独りで抱え込んじまって、
 今よりも更にノイローゼになりまさァ」
「ノイローゼって・・・誰の所為だ、誰の。」
そうつっこむと普段は厳しい土方の視線も緩んだ。
「さあねィ」
総悟はとぼけたように言った。
「上等だ」
2人は空に浮かんでいる月を見上げ、
視線を下に向ける。
「それじゃあ、俺ァ絶対土方さんのこと護りませんからね。」
「フン。上等だ。テメーの命護れねェで、何が侍だ。」
「確かに、そうですねィ」
クス。
総悟は頷き、笑いをこぼす。
「何笑ってるんだ?」
「いえ。天下の真選組の鬼の副長が男が好きってのが笑えまさァ」
訊いてきた土方に総悟は正直に言った。
「それを言うなら、攘夷浪士が恐れる切り込み隊長も同じだろォが」
「違いねェや」
「ククッ。」
そうして2人は互いに笑い合い、唇を重ねる。

それから時もたたずに戦は始まり、2人は血煙の中に消えた。
死んだのだろう。と言う者もあれば、きっとどこかで生きている。と言う者もいる。
2人の行方は未だ知れず・・・詳細も闇に葬られようとしている。
願わくば、2人に幸あらんことを・・・・






fin
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