雨乞い
□手を繋いで、裸足で走って
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その男は坂田銀時――――---
隣には、助手というか従業員の志村新八を連れて街を訪れていた。
その手には、広告のような紙を持っていた。
その紙にはどんな仕事も引き受けます、と大きく記されてあるが実際は如何なのか。
少し気になる所でもある。
二人はビラ配りの最中だった所に、マヨラーとサド皇子が暴れているのを見つけ、止めに入ったのだった。
見れば分かる状況を把握すると、自分たちは情けないところを寄りにもよってこの男に見られてしまったのだ。土方は思いもよらぬ屈辱に身を震わした。
「何でテメーが今此処に居るんだ?あン?そのふざけた髪型見てるとイライラしてくるぜ。」
チッ と吐き捨てたように舌打ちをかます。
「ちょっとさァ、何なの?折角俺が親切に止めてやったのにその言い種は。ったくこんな奴が警察なんて世も末だなオイ。いつからテメーら警察はチンピラ族になったってんだ。」
「チンピラ族は流石に古くないですか?」
「すいやせんねェ、旦那。さっきの事は恩に着まさァ。今日からきちんと躾を厳しくしなくちゃいけませんねィ。」
そう言って総悟は土方を見た。
銀時達からの角度では見えないが、総悟は今黒い笑みを土方に向けている。
不覚にも目が合ってしまった土方はただただ震えるばかりだ。
その事実を知らない新八は震える土方を不思議そうに見ていた。
「それじゃあ、帰りやすか。ねェ土方さん?」
さっきとは違う何時もの笑みを向ける。
「・・・・・・、おう。」
口数の減った土方を見て何を思ったのか、其れは突然の出来事だった。
ちゅ。
「「「!!!!!!?」」」
一同唖然。
される側の二人(新八と土方)にとってする側の二人(銀時と総悟)よりも当然リスクが大きい。
そして、行き成りされると他人の目を気にしてしまうためとても恥ずかしい。
そんなわけで、新八と土方は銀時以上に驚いていた。
とくに動けないのは土方で、未だに固まったまま微動だにしない。
「じゃ、旦那、あとメガネ君もさいなら。さっ、土方さん行きましょうか。」
何時までも動かない土方を、半ば引きずるようにその場を二人は去って行った。
「行き成り、あんなことすんじゃねーよ。」
聞こえるか、聞こえないかそれくらいの小さな声で前を行く総悟に言う。
不意に受けたキス。
触れたところが熱かった。
―――-----・・・
「「・・・・・・・・・・、」」
ビラ配りを終えた帰り道、二人の雰囲気は少し気まずく、
息苦しい空気が間を流れていた。
(だって、あんなのを見せ付けられちゃった後だもんなァ・・・・。)
はぁ・・・・、とため息一つ。
思い出す度、顔が熱くなる。
ちらり、隣に並んで歩く銀時を見た。
眠たげな目は何時もと変わらず、こちらを気にする気配も感じられない。
別に、何かを伝えたいわけではないのだけど 多分。
只、先ほどの事が気になって仕方の無い新八にとって、此処まで無反応だと少しやりづらい。
何時までこの沈黙が続くのだろうか?
視線を銀時から外して、何度目かのため息をついた。
幸せが逃げていくような錯覚に陥った。
「なァ、新八ィ。」
どきっ、 高鳴る心臓の音。
突然呼び止められて吃驚した。
「なっ、何ですか銀さん?」
動揺を隠せないまま変に曲がった笑顔を向けた。
「・・・・・・、」
「―え?」
何も答えない銀時を不振に思った瞬間。
顔が異常なまでに近づいてきたと思ったら、
ちゅっ。
唇に感じた、触れるだけの小さなキス。
「〜〜〜〜〜っつ////!!!」
林檎のように真っ赤に顔を染めて俯いてしまった。
離れた瞬間の銀時の表情は何故か、勝ち誇ったような、それでいてとても嬉しそうな感じがした。
「見せ付けてくれるよなー、アイツ等。お陰で銀さんもその気になっちゃってまァ大変。」
前を歩く銀時の後ろで其れを聞いた新八は、足元にあった空き缶を持ち、勢い良く本人に投げつけた。
バコン、と空き缶にしては力強い音が響く。
あまりの痛さに蹲る銀時を尻目に、後ろから追い抜かしてスタスタと歩いて行く。
「ちょっ!痛ァ!!ねっ、待って!お願い、謝るからホント。」
悲痛の叫びだろうか。
そんな事はお構いなく、無視をする。
悪いのは僕じゃない、そう言い聞かせて、万事屋までの道を淡々と進んだ。