雨乞い

□いちごは赤牛乳は白混ざればピンク
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この際、言いたかった事を忘れてしまったなんて言わずに、話を勝手に作ってしまうことにした。
我ながらズルイ男だな、なんて思ってしまうが、自分の命には代えられない。
本来ならそこまで怯える必要は無いのだが、神楽は短気ゆえに嘘を真にしてしまうような奴だ。
だから些細な冗談も、時には身に降りかかる恐れがあるのだ。

と、いうことで。
どんな理由にしようか…急にあんなことを言い出したのだから、それなりの理由が必要だ。
独りで脳内格闘していると、神楽の声がかかる。

「銀ちゃん、早く言うヨロシ。」

コレは本当にヤバイ。
あまり冷静でなかった思考回路は警報が鳴り始め、もうすでにショート寸前だ。
こうなったら些かアバウトでも仕方ない。

「おお、悪ィ。それで本題なんだけど…「ピンポーン」

丁度その時、タイミングが良すぎる程にインターホンが鳴った。

「ちっ」

さりげなく聞こえてきた舌打ちには聞こえないフリをし、はいはーいと何時に無くご機嫌でその主を出迎える。
心中では、何度も謝礼を繰り返していた。

玄関を開けてみると、其処にいたのは飛脚だった。
何か小さな包みを持っている。
ソレに視線を傾けると、さえぎるように「坂田さんですよね?」と投げかけてきた。
はい、と返事をすると、小包を手渡される。
飛脚はそのまま去っていってしまった。

箱には、生もの注意と記されてある。
身に覚えの無い宅配物に戸惑う銀時だが、いつまでも玄関先で突っ立っているわけにもいかないので、いったん部屋に戻る事にした。

「なんですか?ソレ。」
「もしかしてまたデリバリー大工アルカ?ラピュタ作ってもらえるアルカ?!」
「うっせーよ!いいから静かにしなさい。だいたいあんな小さいオッサンは御免だ。中に居たら即帰ってもらうからな。」
「多分こっちから言う前に向こうからさっさと帰っていくと思いますけどね。」
「うっせーヨメガネ。乙女の期待をぶち壊すとは何事アル!」
「あんなオッサンが乙女の夢って何?全国の乙女に謝りなさい。ついでにお前は浄化されて来い。」
「酷いヨ銀ちゃん…!私充分に輝いてるネ!」
「そうだな、食欲でお前の目はいつも輝いてるよ。お願いだからもうちょっと控えてくれない?銀さん干からびちゃう。」

生ものと記されているダンボールを手に持ったまま、長々と続いていた会話だが、今の一言でこのダンボールの存在を思い出す。
最初は床に置こうかとも思ったが、なんとなく嫌だなと思ったのでとりあえずテーブルの上に置いた。

「銀さん、カッターもって来ましたよ。」

タイミングよく新八がカッターを持ってきた。
多少古ぼけてはいるが、実は相当切れるカッターである。
場合によっては使用に細心の注意が必要な代物だ。(実際は神楽に持たせると危険なだけである)

「お、何だこのガムテープ。案外頑丈なんだけど。」
「厳重なんですね。生ものなのに。」
「もしかしたら高級な生ものかもしれないネ!」
「そこで盛り上がるのもいーんだけどさァ、もしこれが変なのだったら相当ショック受けんぞオメーら。こういうときは、もっと変なもん連想しとけ?後で喜びが倍になるぞ。」
「何ですかその限りなく寂しい喜び。」
「そうアル。希望はでっかく、夢もでっかくもつヨロシ!」
「オメーのは全てが限りなくデカイだろ、絶対。」

なかなか進まない刃先がじれったく、きゅ きゅ、と音を発する。
あまり強引に切り裂こうとすると折れてしまいそうだ。

「銀さん、大丈夫ですか?」

余りに大変そうな銀時に痺れを切らし、新八が声を掛けた。

「あーなんかもう無理、歳だわ。悪いけど代わってくんない?」
「そんなに大変なんですか?」

と、新八が驚嘆の声を漏らす。
傍で大きなため息をつく銀時を見るあたり、相当キツイようだ。

これは心して取り掛からなければならない。

新八は勇ましくも、そう思った。
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