雨乞い
□キューピーブルース
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風も吹かない夜なのに、障子が音を鳴らす。
誰かが来たよ、と伝えているみたいに。
幾度か、それは鳴った。
「誰だ。」
音が鳴ったからといって誰が来たかは分からない。
用心のために、相手の名乗りを促した。
でもそんな考えに気付くはずもないし、ましてや相手の事を気遣う事が面倒な銀時はそれに答えることも無く。
障子を音の一つも立てずに、気配を消し、土方に近づいた。
「よっ!」
「ぅおわわわ!!!」
「……」
「っ…///?!」
思った以上に驚かれて嬉しい反面、情けないな。なんて思ってしまった所為か、無表情になる顔。
それに少し勘付いたのか、急激に顔を真っ赤にする当被害者の土方。
そんな微妙な雰囲気に、顔が少しずつ緩み始める。
「ぷっ…、ははは!」
「…なっ、///!!」
とうとう吹き出してしまう銀時を小さく睨むが、当の本人は気付かない。
火が消えて灰だけになる煙草を潰してしまうと、仕事に戻ろうと背を向ける。
それに気付くと、笑うのを一旦やめて土方に言葉を投げかけた。
「なァ、そんなに怒るなよ。まさかあんなにビビるとは思わなかったけどさァ。」
「うるせェ、何しに来たんだ。金ならやらねェぞ!」
「は、まだ俺何も言ってねーじゃん。別に俺は金欲しさに此処にきたわけじゃねーし。」
「じゃあ何の用だ。場合によっては叩っ斬る。」
「怖いねェ、警察は警察でもチンピラのつくおまわりさんは一味違うってか?」
「…もう帰れよ。」
呆れてものも言えないと、背中と雰囲気が語る。
一気に冷めた空気が二人を包む。
「悪かったよ。じゃ、帰るわ。」
「…」
「誕生日…、おめでとう。」
「……!!」
気付いたら、いつの間にか銀時は居なかった。
そして入れ違いになったのか、直後に総悟が部屋に訪れた。
「何の用だ、俺はテメーに話すことなんて何もねーぞ。」
「だから何でさァ、俺は言ったはずですぜィ。」
「人の話はちゃんと最後まで聞くもんだって。」
思い出される、ずっと何時間前かの会話。
あの時、何を言っていたのだろう。
きっと、同じ事だったのだ。
珍しく素直な言葉。
自分に向けられた、歪な言葉。
おめでとうと、久しぶりに聞いた。
嬉しかった。
今なら間に合うだろうか。
ありがとうと、言えるだろうか。