les fatras

□玉兎
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 彼女の妹は昔から内気で、臆病な子だった。

 群れて動くのを嫌っていた彼女や、別段特に一人でもどっちでも良いと言う弟とは違い、妹は常に一人で居るのを怖がった。 
いつも、何処へ行くのにも不安がっていた。


 その代わり、彼女は家族にはとても良く甘えた。




 彼女は気が向いた時しか妹を相手にしなかったし、彼女は滅多に気が向かなかった。しかも、気が向いた時は大抵弟と組んで泣かせたのだから、妹に嫌われても不思議ではなかった。


 それなのに、妹はいつも自分が意地悪されたことなど忘れたかのように彼女に甘えてきた。妹は、そういう子だった。
まるで、人を憎んだり嫌ったり、そんな負の感情は存在していないかのような、穢れを知らない純粋な子だった。
 妹の身体はまるで彼女の心をそのまま表現したかのように、一点の穢れもない白だった。まるで雪のような白。



 そう言えば妹には雪が良く似合った。





 ある冬の日、外には雪が積もっていた。
 その頃には彼女より一回りも二回りも大きくなっていた弟は真っ先に駆け出していき、妹も家を飛び出して行った。彼女はその姿を目で追い、欠伸をしながらふいと目をそらした。



 その時だった。妹の悲鳴が聞こえたのは。


 彼女が慌てて外に出てみると、そこには自分の顔元までもある雪に脚をとらわれて身動きの出来なくなっている妹がいた。弟がその周りを笑いながら走り回っていた。助けようともせずに。


 その平和な光景に彼女は一瞬笑みを浮かべ、そして何故か突然、言い知れない不安にとらわれた。



 不安になる要素なんて何処にもなかった。いつものように弟は妹をからかっていたし、妹は必死に手足を動かして体制を整えようとしていた。

彼女はいつものように、少し離れた場所からそれを眺めていた。


いつも通りの、ありふれた光景だった。



 もしかしたら、妹の姿があまりにも儚げに見えたからかもしれない、と後に彼女は思った。



 雪に脚をとられていた妹は、その白い身体を懸命に動かしていた。だが、降り積もった雪の前では、妹のわずかな抵抗など無いに等しかった。

 妹の顔に雪の粉がつき、弟はそんな姿を見て笑った。だが、彼女には、その姿はまるで元から雪のように白かった妹が、まるで雪に囚われているかのように写った。


 いつか妹は雪にからみとられて、雪と一緒に溶けてしまうのではないか。


 そんな錯覚を、彼女に与えた。
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