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□変態男性論
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ヒソカは変態だ。
見た目からして変だし、喋り方も可笑しい。それに人を殺めた時のヒソカの顔は、まるで情事をした後の快楽で狂ったような顔をしている。
だから私は彼奴が嫌いだ。
何を考えてるのか分からないし、不気味で堪らない。
「…おや」
「……ヒソカ。」
「マチもお留守番なのかい?ボクも何だよね」
「……」
人とは不思議な生き物で、一緒に居たくない人に限って、何故か一緒に居なくてはいけない状況が生まれてくる。
私の目の前には、ヒソカ以外の旅団のメンバーが誰一人、アジトに居ないのだ。フィンクスもノブナガもフェイタンもシズクもフランクリン、パクノダ、シャルナーク…団長のクロロも誰一人居ない。
(何でだ!?)
今日は、旅団のアジト…誰も近づこうとはしない廃墟だが、其処でメンバーの皆が集まると聞いていたのに、今この場に居るのは私とヒソカだけ。
「ククク…そんなに警戒しなくてもいいのに」
「…皆は?」
「マチが来る前に仕事に行ったよ」
「……団長も?」
「ボクが此処に来たときには、クロロはもう居なかったよ」
何処に行ったのかな、と何時も見せる何を考えているのか分からない顔をして笑うヒソカ。
私とヒソカ以外の旅団メンバーはお宝を盗みに、団長は行方不明。つまり必然と、私とヒソカはアジトで留守番をしなくてはいけないのだ。二人っきりで。
「……」
「ククク…」
「さっきから何が可笑しい。」
「いや……君は何時もそうだよね」
「?」
訳の分からない言葉を口にし、先程より機嫌良さそうに笑うヒソカに、マチは眉間に皺を寄せて其れに比例しているかのように不機嫌になっていた。
「いいよ…君の瞳何時もボクを警戒しているその目が、どれ程ボクを欲情させるか」
君は知らなかっただろ…?
「!」
明らかに先程と雰囲気が変わったヒソカに、マチに悪寒が走った。
何時ものまったく感情が掴めない笑いじゃなく、今は目が笑っていないのだ。冷静な目をして私を見てくるヒソカは、まるで獲物を捕えようと必死な獣のような執念の炎が瞳からメラメラと見えてくる。
「……マチ」
「っ…!」
さっきまで目の前に居た筈なのに、いつの間にかヒソカは自分の背後に立っていた。私の腰に沢山の人の血で汚れた腕を回してきた。
ヒソカの胸の中にスッポリ入ったマチは、離れようと抵抗するが、ヒソカはその行動に嬉しそうに笑うだけで、更に腰に巻き付いた腕に力が入るだけだった。
「ヒソカ!離せ、変態!!」
「変態とは酷いなぁま、合ってるけど」
「開き直るな!」
「マチ…」
マチの細くてヒソカより二回り小さな肩に、ヒソカは顔を乗せ、マチの耳許に息を軽く吹き掛けた。それにマチはビクッと身体を震わせ、耳に熱が集まってくるのが分かった。
「マチ。」
「っ……!」
今出してはならない声を何とか抑えようと歯を食い縛り、何時もの冷静沈着な顔じゃなく余裕の無さそうな顔をしているマチに、更に気分を良くしたヒソカはマチの耳たぶを甘噛みした。
「ぁ!」
「可愛いな、マチは」
「き…貴様!」
自由な腕で、ヒソカの顔に一発喰らわせようとするが、間一髪のところで避けられてしまい、軽く舌打ちをするマチ。
「危ないなぁ♪」
「…ちっ……」
「いいよ…すごくイイ君は絶対にボクに堕ちず、立ち向かってくる」
「…当たり前だろ!」
マチは知らない。
ヒソカという男を。
ヒソカは自分をからかい、それを楽しんでいるのだ。自分に本気ではなく唯の暇潰しで、愛撫をしてくるのだ。と、マチは思っている。
(君はいつ気付くだろう)
ヒソカは本気なのだ。
だが、マチが自分の手に入らないモノだと思っている。マチは自分を警戒し、その細く可憐な身体を愛撫しても対抗してくる。自分を拒絶してくる瞳は、強い意思を持っている。手に入りにくいモノほど欲しくなる。手に入れやすいモノほど価値はない。そう考えるヒソカは、マチを心底手に入れたいと思うのだ。
「〜っ!!」
「!」
マチはヒソカが気を抜いた隙に、念糸を使いヒソカの首にそれを巻き付けた。
「…早く手を離せ。」
「残念」
マチの殺気が混ざった鋭い目付きに、ゾクゾクと興奮しながら、ヒソカはマチの腰に回していた腕を直ぐに離した。マチは直ぐ様、ヒソカと距離を取るとヒソカの目を見た。
(楽しんでいる…今の状況を!)
「これ以上私に触れてみろ!次は殺す!!」
「」
「今後一切、私に近づくな!」
マチはヒソカにそう言うと、留守番をする役目を忘れ、アジトから出ていった。
「……許さない!」
アジトから離れた誰も居ない路地に出ると、マチはそう独り言を呟きながら、ヒソカの唇が触れていた耳をゆっくりと指で撫でた。
初めてだった。
ヒソカの唇に触れたのは。それは温かく、柔らかくて、初めてヒソカから人の温もりを感じた。
ヒソカは狂っている。
殺人が好きな奴で、自分の玩具を見つけると其れを楽しそうにジワジワと苛めていく。
そんな奴に、頬を染めてしまうとは…!
「…逃がさないよ」
ヒソカがそう囁いていたのをマチは知らない。
end
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