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□sky
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蒼く澄みきった空を見ると、あの日の嫌な事を思い出してしまい、上に向けていた頭をついつい地面へと向けてしまった。空を見るのは好きなのに、どうしてしまったのだろうか。

藍染らと肩を並べて、あの日の空へ消えていった幼馴染み。彼奴は何処に消えた?何処に行った?ねぇ、ギン?



「……やだやだ。何、下向いちゃってんだろ私。」



暗い雰囲気は自分に似合わない。乱菊は何時も通りの大人な笑顔を見せ、顔を上に上げる。

十番隊隊舎の廊下をゆっくりと歩いて行く。ふと庭先に目を向けると、自分の部下達が毎日丁寧に手入れをしている花たちが蕾から開花していた。もう春が来たのだ。梅の木は少しづつ赤みを帯びていき、桜の木は花を咲かせる準備を始める。

こんなに穏やかなのに。こんなに心地いいのに。寂しいだなんて。



「……もう春だな。」

「うぉうっ!」



いきなり背後から声が掛かり、乱菊はその見た目に似合わない変な声を上げた。誰だと後ろを勢い良く振り返ると、誰も居ない。気のせいだったのか?と首を傾げると、下から"おい…"と、ドスの効いた低い声が聞こえた。



「ありゃ…日番谷隊長?」

「…お前は俺を馬鹿にしてるのか?それとも天然か?」



額に青筋を浮き出させ、苛々と腕を組み、堂々と立っている隊長がいる。機嫌が悪いらしい、原因は分かるが、敢えて私は其れを口にしなかった。それを言ったら必ず隊長の"氷輪丸"の餌食だ。



「隊長の身長が低くて気付きませんでした。…なーんて言いませんよ!」

「…たった今、お前の口が言ったぞ…松本?」

「………はて?」

「てめぇっ…ワザとか!」



切るぞこら!という勢いで、氷輪丸を掴む隊長。冗談が通じない人!と思いながら、私は鼻歌を口ずさみながら知らんぷりをした。

何時もの絡みだ。
今みたいな冗談を言い合いながら、隊長とは今までやって来た。だから隊長も、しょうがないな…と溜め息を吐いて終わる。



「たくっ…;」



ほら、今日だってそうだ。
隊長は本当にいい人だ。私が出会ってきた男の中で、一番良い男だろう。ハッキリと言える。自分の事より優先するのは部下の事で、思慮深く、顔もいい。身長が低いのが残念だけど(笑)、何年かしたら逞しい青年になっているのだろう。

何で私はこの人を好きにならなかったんだろう?この人を好きになっていたら、素敵な恋愛が出来ただろうに、私は彼奴を求めているだなんて。

(嫌になるわ。)



「松本…」

「えっ…あ、はい。」



考え事をすると良くないなと思う。今だって隊長に返事をする時、言葉がどもってしった。いけないと思い、背筋を伸ばし、隊長の目を見たが、後悔してしまった。

(そんな目で見ないで下さい。)



「俺は…」

「……はい。」

「藍染を叩き潰すと誓った。勿論、市丸も。」

「…分かってます。」



隊長の気持ちを理解出来ない副隊長など居たらいけない。隊長の決意を私は前から知っている。隊長は雛森の為に戦っているのだ。大切な幼馴染みをボロボロにした藍染を、その仲間のギンを、倒す覚悟を決めている。守る者が居るから、この人は強いんだなと、尊敬をしている。

でも、逆に嫉妬している。
私には守る者が居ないから。

私の守っていた者を切ると言った隊長を、憎んでいるわけではない。自分が憎いんだ。まだギンを忘れられない自分を。



『さいなら、乱菊』



ゴ免ナ…



「市丸は、俺が切る。」

「…」

「そうじゃなきゃ……俺の気がすまねぇ。」

「…?」

「…お前に、そんな顔をさせる彼奴が……俺は憎く思う。」

「えっ…」



隊長は私が口を開く前に、スタスタと私の横を通り過ぎていった。何が起こったか分からない私は、身体を動かせないまま、その場に立った間までいた。



「な、んなんですか…隊長。」



胸がドキドキと五月蝿く鳴る。身体中の血液が顔に集まってくるかのように、頬が恐ろしく熱い。脳みそは今にも溶けてしまいそうだ。



「止めて、くださいよ。」



一瞬、頭の中に居たギンがボヤけた気がした。






end

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