捧げ物

□瞳が閉じるその前に
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 空気がピンと張りつめた様に感じる冷え込みのきつい今朝。

 新しい日の始まりは新鮮な空気を吸いたい。窓を開けると雲一つ無い、澄み渡った天空が広がる。

 大きく伸びをして痛いくらい冷たい空気を受け入れた。

 今日も太陽に照らされる事を許された俺は待機所に向かう。

ジャリ、ジャリ…
サク、サク…

 本当に寒いんだなと、霜柱を踏みしめて実感する。おまけに風も強い。

 いつ如何なる時も平常心でいなければならない忍とはいえ、寒さはやはり堪える。

「カカシさん、おはようございます」

 イルカ先生か。面倒なので片手を挙げて挨拶。

「いい天気ですが風強いですね。この地域一帯の名物『木の葉颪(おろし)』が凄い」

 高い頂を持つ山肌から降りてくる風は里一面を吹き荒れる。

 特に会話する事無く、お互いの体温の届く距離で歩いていた。



ハラリ…



 ん?花びら…

 ヒラヒラと、何枚もの白い花びらが舞い落ちてくる。

 その内の一枚を掌に乗せると…スゥッと消えた。

 これは…雪?

 雲一つ無い晴天の空から何故?

 いぶかしがりながら空を見上げる俺に

「風花ですよ」

 イルカ先生が物思う様な顔をして教えてくれた。

「風花?」

「ええ、晴天の日に天空から舞い落ちる雪が花びらに見えるのでそう言われているんです」

 でも里には雪は積もっていないし…

「多分あの山頂の雪が風で舞い上がり里に運ばれてきたのでしょうね」

 成程。雪と同じ様に謎も解けた。

「綺麗ですね…寒いのも忘れてしまう。そう思うのは、儚いものだからでしょうか…」

 イルカ先生の瞳が揺れる。儚いものを哀れと思うか、貴いものと思うからか俺には分からない。

「イルカ先生。ちょっと急ぎましょう」

「ああ、いけない。見惚れている場合じゃなかった」

 じきにこの風花も止むだろう。

 同じ花ならば、俺は死に際に咲かせたい。

 しかし今は無理かな…

 今は…

 今は…毎朝陽に照らされる小さな花でいたい。



その時



 一陣の風が俺の周りを駆け抜けた。



生きろ



 風は確かにそう言っていた。
 
END
 
→あとがき
 
 
 

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