杜の賑わい
□落ちゆく刻‐とき‐
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「ホラ、土産だ」
「……何だ、これ」
「見たら分かるだろう。砂時計だ」
「はぁ……」
いきなり俺に向かって放り投げられた物を慌てて受け止め、空に透かして眺めれば、なんて事ない其処らの店で売っている様な、普通の砂時計に見える。
土産は要らないっつってんのになぁ……
テマリは木の葉に使者として度々来るが、俺にも顔を見せてくれる。いつも何かしら手土産を持って……
来たついでに逢いに来てくれるだけで本当に嬉しいのに、テマリは気恥ずかしいのか、必ず土産を持参する。
とうとうネタも尽きたのか砂時計たぁ……
砂時計のガラス越しにテマリを見ながら苦笑いする俺に、ツンと唇を尖らせて
「何だ?礼を言わぬのか?ちょっと親しくなると木の葉の男は礼儀知らずになるのか?」
「あ〜いやいや。すまねぇ!ありがとな」
ちょっと上目使いに謝ったが納得していないのか視線が冷たい。
「言っておくが其れも我が風の国の立派な土産の逸品だ。風の国の砂は汚染が少なく、砂時計として使われる砂としては最高級と言われている。木の葉の3代目火影にも友好の印として贈呈した筈だ」
「あぁあれか。火影の執務室にあるドでかい砂時計」
「そうだ。あれは365日で丁度砂が落ち終わる様になっている」
「ふ〜ん……で?俺にテマリは友好の印にコレをくれたのか?」
「な、なんだ?嫌なら返してもらおう。いや友好とか変な意味にも取るな!!そ、それと年下のくせに呼び捨てにするな!!」
照れてんのか怒ってんのか、はたまた困ってんのか大袈裟な動作をしながら俺に食ってかかる。
貰って欲しいくせに。年下とか関係無いくせに。本人言ってる事と思っている事真逆だぜ。そんな事本当に思っているんなら……
「じゃ、早速使わせて頂きますか」
くるりと砂時計を逆にして時を刻ませる。砂は調子良くサラサラと落ち始める。
プイっと横を向いていたテマリに、俺は何も言わずに後ろから抱き締めた。
「えっちょっ!シカマル!何のつもりだ!」
「砂時計の砂が落ち終わるまでこうしていたい。駄目か?」
「後ろを取るなんて……卑怯だぞ」
言葉に力が無い。焦っているのか声の抑揚も可笑しい。卑怯と呼んだのに俺の腕をはらわない。
「木の葉の忍者にテマリって呼び捨てにされるの嫌か?」
「……嫌だ……」
「年下の男は眼中に無くて嫌いか?」
「……嫌いだ……でも!」
「でも?」
俺の袖をギュッと掴むテマリ。後ろからそっとテマリの表情を伺う。
キュッと小気味良い程きつく束ねた髪。白く細い首筋。形のいい綺麗なうなじに、金色のおくれ毛が俺の正気を失わせそうだ。
「でも……シカマルなら……い、嫌じゃ…な、ないと思う」
「ん。素直でよろしい」
「ば、馬鹿にしているのか?」
「い〜や全然!ホラ、もう砂も落ち終わる。残念ながら時間切れか」
チラリと砂時計の方を見ると、既に砂は全て下に落ちていた。
手を伸ばしてくるりと返したのは、テマリだった。
「砂時計の砂が落ち終わるまで…だったな」
「あぁ…そうだ。落ち終わるまで…な」
更に一層強くテマリを抱き締めて、お互いの心臓の鼓動を静かに聴いていた。
たまにしか逢えねぇし、愛を語れる程俺らは大人じゃねえ。
触れ合う事すら臆病な心に、刻の砂は滑る様に流れ込む。
どうか……
刻の砂よ。俺達の為に流れてくれ。今この時が生きる全ての想いとなる源流へと、俺達を導いてくれ。
サラサラと、穏やかに二人を飲み込んで……
END
→後書き&落書き