杜の賑わい

□願い
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「カカシさ〜ん…帰ってますか?」

 数日間、主(あるじ)の帰りが無い部屋は、時間が止まっているかの様に静かだ。

「やはりな。ま、いいか。お邪魔します」

 この淀んだ空気を乱したくて、俺は一気に窓を開けた。夜勤明けの体には朝日が少々痛い。

 カカシさんの留守に部屋に入るのは、あまり好きではない。でも……貴方は帰って来るから。必ず。

 約束をしたんだ。カカシさんが帰る時は、いつも俺がカカシさんの部屋で待ってるって。

 貴方は俺との約束は破らない。だから信じてる。だからここで待ってる。

 全ての窓を開け放った後、台所に行き洗っていない食器を片付け、冷蔵庫から痛んだ食べ物を出し処理をする。

 脱衣所で脱ぎっぱなしの忍服を見つけた。そっと匂いを嗅いでみる。

「良かった…血の匂いはしない」

 服に残っていたのは愛しい人の微かな香りだけなので、安堵した俺は洗濯機を回した。

 血の匂いがしないという事は貴方が人を殺めていない証拠。忍…特に上忍ともなれば敵とあいまみえるのは日常茶飯事だ。

 任務とはいえ縁もゆかりも無い、ましてや恨みなども無い相手を訴たなければならないのは不条理極まり無い話だが、生憎と平和主義の国の少なさが任務が減らない原因である事も、浮き彫りにされている。

そして貴方は行くのだ。この国を、木の葉の里を守る為に。

 なんだか小難しい事を考えてしまったな。今はそんな事よりも早くカカシさんに帰ってきてもらいたいだけだ。

 寝室のベッドに寝転がってみる。

「ん〜〜っっ!ふあぁ〜あ」

 思わず伸びをしながら大きな欠伸をしてしまう。

 いつもこのベッドで、俺の隣に寝ている筈の貴方の体温が恋しくて、つい手を伸ばすけど…温もりは一週間前に任務と共に消えた。

「早く帰ってこい…」

 呟きながら俺は目を閉じて、虚ろう刻に身を任せた……



 カーテンが風にたなびき、バタバタという音で俺は目を覚ます。外を見ると既に陽は真上には無く、影が長くなりかける時刻になっている。

「あ〜ヤバい。寝過ぎたかな…兎に角夕飯の買い出しには行かなくちゃ!」

 寝起きの髪も整えずに、俺は近所の商店街へと急いだ。

 既に夕食の買い出しの客用に店も特売を始めていた。その特売を狙って客も店先へと誘われ、通りは賑やかになっていた。

「今夜は何にしようかな…」

 任務先ではあまり手間暇かけた物など口にしていない筈だ。よし決めた!

「野菜の天ぷらと鰤の照り焼き。蜆の味噌汁にアスパラのおひたしにするか」

 食材の他に、天ぷらに使う抹茶入りの塩と付け合わせの葉生姜も忘れずに購入。

 店を出ると、西の空は茜色に染まりつつあった。
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