杜の賑わい
□嘶きは、遥かな君へと
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カーテンの向こうには抜けるような青空があった。
「ん、こんな清々しい朝はやはり洗濯を極めましょう」
独り身の寂しさも愉しさもわかりかけてきたこの頃。ゲンマさんやアオバさん、ライドウさんの三十路メンバーからの熱いラブコールは、メンバーに入るつもりは当分無いからと、丁重にスルーさせて貰っている。
「よし、今日は大物を洗いますか」
バサリとシーツや毛布、布団カバーを一気に干すと、独り者のベランダがまるで家族持ちのような賑やかさになった。
「はははっ、これは爽快ですね」
窓の外に広がる光景に、腕組みしながら悦に入っていたが、時間が気になり壁の時計を見る。
「さて、そろそろ出掛けてきますか」
身支度を整えて私は出掛けた。
或る場所へと。
「あら、エビス先生。……いつものですか?」
「こんにちは、山中さん。ええ…すみません、お願いします」
ごく稀にしか花を買いに来ない私に、どんな用途の花がいいのかと聞かれて、返答に困る私を見た山中さんは、華やか過ぎず、けれど誰もが笑顔になるような花束を作ってくれた。
さり気ない心遣いが嬉しくて、それ以来いつもお願いしている。これがいのだったら、間違いなく根ほり葉ほりききたがるだろうな、なんてコトを母親には言えないなと心の中で苦笑いする。
店を後にし、私は里を離れた。林が森に変わり、緩やかな林道も獣道へと変わる。
人間はあまり立ち入らない樹海。ここはまだ結界が張られているので時折見回りの忍びが来るだけだ。
風の音や鳥のさえずりさえ聞こえぬ、翠深いこの場所に、私は毎年この日に出向く。
「……、…」
そこには先客がいた。
後ろ姿から察するに、小柄で体つきは女性だが、腰つきやお尻の肉付きからして、まだ思春期の女の子のようだ。しかも肩の印と忍服は、どうやら暗部の者と思われる。しかし、忍としてはまだまだ未熟さが伺える。
「…!……誰かいるのか?」
振り返ると“馬”の面をつけていた少女。私の気配を察知できずにいた事は、敵が気配を消して近づいてくる”死“を招く事に繋がる。
例え自分の陣地に居ようともけして油断してはならない。経験値をもう少し積まねばならないようだ。
「失礼。……君は……」
「……エビス先生…ですか?」
「ええ…。君は……。もしかして…。コダマの…知り合いですか?」
「はい…」
「そうですか…」