杜へのいざない
□ダイヤモンドダスト
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世界が輝いている。
キラ…
キラ…
「あぁ?道理で寒いと思ったぜ」
「今朝はかなり冷え込みましたからね」
再不斬さんの息がぱぁっと淡く白い煙の塊となり、静かに空気に溶けていく。
僕も空に向かってハァ〜と軽く息を吐く。
やはり淡い白の煙の塊が空に広がり消えていった。
世界が輝いている。
あまりの寒さに空気中の水分も凍りつき、太陽の反射で氷の結晶がそこらじゅうでキラキラと輝いている。
「綺麗ですね」
「……………」
「え?」
「なんも言ってねぇよ。行くぞ」
キラキラと輝く世界の中を、僕らはまっさらな雪の路に跡を残して歩く。
「そういやぁ……お前この時期に産まれたんだよなぁ」
「はい、そうです……昔母さんに聞いた事があります。僕が産まれた日は雪が降ってたって。雪の様に肌が白い赤ちゃんだったから“白”って名付けたと……」
「芸の無ぇ親だな」
「そうですねぇ」
苦笑いをする僕を見もせずに前を歩く再不斬さん。
キラキラと輝く世界。二人の雪を踏む音だけが聞こえる。
なんて静かな世界だろう……
なんて儚く美しい世界なんだろう……
この世界が楽園ならば……
「お前さ……なんか食いたい物……ねぇか?」
突然の問いかけに慌てたけれど、僕の答えは分かっているでしょう?
「再不斬さんの食べたい物ですよ」
「ほぅ……じゃあ今夜は牡丹鍋だな」
「はい」
僕の食べたい物なんて無い。僕の行きたい場所なんて無い。
僕の意思は存在しない。有るのは道具として生きる身体だけだ。
道具として生きる僕を哀れむ人もいるが、知っているのだろうか?
その同情の言葉は、氷のナイフより鋭く冷たく僕の胸を貫くのを……
僕は道具でいい。でなければ……生きている価値が無い。意味がない。存在理由が無い。
再不斬さんに拾われたこの命。貴方の為に使ってこそ価値が見い出せるのだから……
ただ、できることならば……
この旅の終わりを迎える時は……
そう、できることならば……
あの場所へ――
貴方と――
灼熱の大地でも
凍てつく氷河でも
砂塵渦巻く砂漠でも
荒れ果てた荒野でさえ
貴方とならば
そこは
楽園となるでしょう
「再不斬さん、行きたい場所ってありますか?」
「ん?さぁな……多分……お前が行きたいトコだろうよ」
「えっ?温泉ですか?」
今まで僕を見ずに歩いていた再不斬さんが、ようやく首をこちらに向けてくれた。
表情は笑っていない。けれど眼は穏やかに僕を見つめてくれた。
「行くか……」
「はい」
貴方が囁いた言葉は僕はちゃんと聞いてましたよ。
『お前の作る結晶の方が綺麗だ』
楽園へ行こう
貴方と
楽園へ
END
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