杜へのいざない
□そして神は賽を振る
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いやに森が静かだとヤマトは気付いた。
普段なら其処ここに木々の間から聞こえる筈の小鳥のさえずりや、小動物の移動の葉音や姿も無い。
何かの前兆なのかと不安になり、ヤマトは念のため警備の忍に強化を勧める忠告をと、物見棟に向かう。
ふとヤマトが足を止めた。
「蝶…?しかも黒揚羽…」
その黒揚羽はヤマトの周りをヒラヒラと飛び回る。
しかしよく見ると、その黒揚羽は昆虫ではなく、紙で造られた蝶だ。
「これは……まさか……僕に?」
ヤマトが蝶に触れた途端、蝶はただの黒い紙切れとなり、地に落ちた。
「そうか……」
何もかも悟った表情のヤマトは、その場に留まり、その時を待った。
葉を揺らす風を引き連れて、二人の忍がヤマトの前に降り立つ。
「元・暗殺戦術特殊部隊所属テンゾウ…現コードネームはヤマト…さんで間違いないですか?」
カラスの羽根の様な、艶やかな長い黒髪をなびかせた、盲目の青年が問掛けた。
「はい、ヤマトです」
「初めまして…ですよね?私は紗牙(さが)。こっちはバディの嵐山(らんざん)」
「ねぇ、貴方俺らの事知ってる?」
盲目の青年より若い忍が、小首を傾げて人なつっこい口調でヤマトに話しかける。
「君達…『黒ヤギ』なんだろ?噂には聞いてるよ。盲目の特別上忍と若い中忍のコンビで左腕に黒の腕章を着けてるってね」
「そっ!俺らは火影直轄の特別任務を要請された、遺言書を届ける『黒ヤギ』でっす!知ってんなら話が早い。貴方宛てに遺言書が届いてるんだ」
紗牙が懐からヤマト宛ての遺言書を取り出す。
「ヤマトさんではなく、テンゾウさん宛てですが…」
「……」
それを無言で受け取り、差出人の名を見つけたヤマトの表情が曇る。
「この人は…殉職ですか?」
「詳しくは知りませんが…病死らしいです」
「そうか……やはり…駄目だったか」
遺言書を見つめながら、自分を納得させるような口調のヤマト。
こんな光景には馴れているのか、紗牙は事務的に話を続ける。
「一応説明しますが、ご存知の様に特別上忍以上の忍は、皆遺言書を書き火影に提出しますよね」
「ああ、僕も書いてるよ。こんな職業だからね、いつ死ぬか分からないので、死後の身辺処理などを記述している」
「火影が目を通し、火の国及び木の葉隠れの里に関した重要機密を漏らしていないか確認の後に、火影、差出人、受取人以外は開けられないよう封印してあります。よって配達人の私達は内容は知り得ません」
「たまにいるんだよね〜お前等見ただろってケチつける人さ。いい迷惑だぜ、好き好んで見るもんでもないのにさ」
グチる嵐山を顔だけ向けて無言で黙らせる紗牙。
見えないというのに、まるで見えているかの如く、その洞察力は鋭い。そして尚も話を進める。
「さて…本題です。この遺言書を受け取るのは任意です。どうされますか?」