親世代五年生

□三話
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「今日は君たちにとっておきの薬を調合してきた」
スラグホーンは楽しげにそう言うと、テーブルに用意したいくつかの薬を紹介し始めた。
様々な珍しい薬が並ぶ中、ひときわ目を引いたのは魅惑万能薬だった。かく言う私も嗅いでみようと席を立ち、薬に手をかざし、湯気を掻いて鼻腔を広げた。いろいろな匂いが混ざっていてよくわからない。
私の鼻の効きが悪く、他の薬品の匂いと混ざり合った匂いなのか、はたまた想い人がいないので魅惑万能薬そのものの匂いなのかはっきりせず、もやもやとした心持ちで席へと踵を返した。
席へ戻る途中、ジェームズが興味深々といった顔で尋ねてきたので短い会話をした。
「どんな匂いがした?」
「んー、なんか色んな匂いが混ざってた。わかんなかったなぁ…」
「へぇー…残念だなぁ。知りたかったなぁ、君の好きな人」
「好きな人いないから、薬そのもの匂いだったのかもなぁ…」
「それはあり得る」
席に着いて、スラグホーンの説明を聞き、黒板を見た。今回の薬は強力な睡眠薬。湯気さえも作用を伴っているので吸い込まないようにと言われ、マスクを着けて取りかかった。
久しぶりにいいペースだ。スネイプとリリーを盗み見ると、自分と同じ方法をとっているのが見え、心の中でほくそ笑んだ。そろそろ薬が出来上がる頃、湯気が濃く、中身の色が見えなかったので覗き込んだ。
マスクをしていれば大丈夫だろう、その認識が甘かった。しまったと思った時には急激に意識が遠のき、できるだけ鍋から離れるように体を無理やり動かした。近くにあった薬品棚に手をついてもたれかかり、冷んやりとした床に崩れるように横になった。
こちらを見下ろすエイダの目が見開かれていくーああ、瞼が、重い。


覚醒したと同時に気道に入った水分を吐き出そうと咳き込み、口内の苦味でえづいて溢れてくる唾液を何度も何度も嚥下した。
薬で眠ってしまったはずなのになぜ水分が気道に入ってきたのか、と疑問に思っていると、スラグホーンの声が上から降ってきた。
「起きたか…良かった」
スラグホーンの声と背中の冷たい床の感触で、どうやらまだ授業中だということがわかった。霞がかった意識のまま瞼を開け、周囲を確認すると、スラグホーンの他に、スネイプ、エイダ、リーマスなどが私の顔を覗き込んでいる。口を固く閉じながら唾液で苦味を流し込んでいると、スネイプの手に水の入ったコップがあることに気がつき、上半身を起こして手を伸ばした。
「水」
「………」
スネイプに無言で手渡され、入っていた水を飲み干すと、意識が急に鮮明になった。油断していたことを恥ずかしく思いながらなりながら「ご心配おかけしました」と、周囲に謝るとスラグホーンが大きなお腹の向こうから言った。
「マスクはしていたはずなのに、どうしてなんだ?」
「色を見ようと、鍋の中を覗いたんです…」
「そうか。それも説明していたはずだが?」
「え…すみません…」
聞いていたつもりだったが聞き漏らしていたようだ。かつてない失態に、顔が熱くなった。
「まあいい。セブルスがたまたまベゾアール石を持っていたので応急処置が早く、一日中眠りにつくのを防いでくれた。礼を言うといい」
まさかあのスネイプが。驚きつつスネイプを見ると、握っていた手を開き、ベゾアール石の欠片を見せて言った。
「数カ月前のもらい物だ。返そうなんて思わなくていい。礼も要らない」
もらい物。返そうなんて思わなくていい…そうか、私があげたプレゼントなのか。
言葉の端に表れた意味を理解し、礼さえも拒否するスネイプの意固地さに笑った。
「セブルスがした応急処置は極めて安全かつ的確だった。石が食道でつまらないようベゾアール石を粉末化し、口内に塗り、水を入れて流し込んだ。スリザリンに一○点」
スリザリンからスネイプの功労を讃える声が上がった。私は自分のことのように嬉しくなりつつ、スネイプを見つめて「ありがとう」と言った。
するとスネイプはベゾアール石の欠片をポケットにしまって立ち上がってから口を開いた。
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