親世代五年生

□一○話
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私は朝食を食べ終えて雪の降る天井を見上げ、今年もこの日がやってきたんだなぁとぼんやり考えた。飾り付けされたもみの木が、遠い日本での生活を蘇らせる。無性にショートケーキが食べたくなった。
「おい」
横を見るとスネイプが立っていた。今日はクリスマス。律義に約束を守ろうとしてくれているスネイプにも、ゆっくり、のんびり楽しんで欲しい。
なにを言いたいかわかるので先に言うことにした。
「おはよう。今日はいいや。クリスマスだから。…いつもありがとう」
会話の意識外の人には日本語にしか聞こえないので、声をひそめることなく言った。スネイプは視線をそらして、しばらくたってから頷いて去って行った。約束したことは必ず守る、律義な奴。いいところの一つだ。
そこへバサバサとふくろう便が飛来してきた。私の目の前にはひらりと一通の封筒が落ちてきた。何かの間違いだと思い宛名を確認すると、他の誰でもなく、しっかりと自分の名前が書いてあった。差出人は…リーマス。こちらもこちらで律義だ。友達らしく付き合ってくれている。嬉しいことだ。
私は席を立ち、バーナバスのタペストリー前で和英辞典を望みながら往復し、出現した部屋の中へ入った。
封筒を開き、読めるところは読み、読めなかった部分は辞典を引いた。やがて手紙の内容が理解できた。

『やあ、元気かい?僕はまあまあ。特に書くことはないけれど、君が寂しくて泣いてないか心配になったから手紙を送ってみた。あと、僕がいないからってあの部屋で夜更かししたらダメだよ。ちゃんと寝てね。それと、休暇が明けたら話したいことがある。休暇明けの次の日は土曜だから、一緒にホグズミートに行こう。大事な話しだから二人だけで。予定、空けておいてね。よろしく。バイバイ!』

話しとは何か気になるが、それはさて置いて新年最初のホグズミート。しかも二人だけ。まあ、たまにはジェームズたち抜きでもいいかもしれない。しかしホグズミートへの道中、間が保つか心配だ。…授業の話しでもしよう。
私は封筒を閉じ、手に持ったまま部屋から出て自室へと戻り、クリスマスパーティーの開始までおとなしく授業の復習をして時間を潰した。


やがて外に闇が広がり、円に近づきつつある月がぽっかりと浮かんだ。時計を確認しながら晩餐を待ち、開始時間の五分前に部屋から出た。教員や私以外の生徒はすでに着席しており、私が最後ーかと思っていたが、ダンブルドアが遅れて入ってきた。
「こんばんわー」
「久しぶりじゃのう。元気じゃったか?」
「はい。おかげさまで」
「それは良かった。これを」
ダンブルドアは手のひらの上から特大のクラッカーを出現させた。
「これ…」
「当たりつきじゃ」
スネイプはハゲタカの剥製帽子だったが、今回は何だ?嫌な予感しかしない。
私は半笑いで受け取り、エドワードの隣に座った。
「こんばんわー」
「こんばんわ。遅かったですね」
「寒くて出たくなくて」
「ふふ。ここは暖かいのに?」
「歩いてる間が耐えられません」
「意外にわがままですねぇ。ちょっとの間じゃありませんか」
「そのちょっとが…」
「始めますよ」
マクゴナガルがピシャリと言った。私はおとなしく口を閉じ、教員側を向いてクラッカーを用意した。
「さて、お集まりいただき感謝する。今年もこの日を皆と迎えられたことを幸運に思う。今晩はよく食べ、よく飲み、よく話しなさい。教員方とも交流し、理解を深め合ういい機会じゃ。では、今日一日の締めくくりに、もうすぐやってくる新年に乾杯しよう。…##NAME1##クラッカーを」
「はい」
きたー。なにが出るかななにが出るかな、タラリラッタ、タララ…

パァン!

私の体に何か重いものが被さった。クラッカーを置いて胴体を見てみると、深く、艶やかな緑色の、鳥の羽が幾重にも重なった厚手のローブが出現していた。羽を親指の腹で触り、よくよく眺めてみると、どうやら孔雀の羽のようだ。うーん、ゴージャス。
ふと顔を上げて隣にいるエドワードを見ると、ぷっと噴き出して口元を手で押さえた。
「?」
周りを見てみるとみんな同じように笑っている。スネイプまで。なぜだ。
おかしな部分があるからこそ笑われているのだと思い至り、背中部分を確認してみると、うなじと肩甲骨の間の辺りから、孔雀の剥製が大きく翼を広げて鎮座していた。無駄にゴージャス。小林某かよ。どうりで重いわけだ。いいえわったーしは、サソリ座の…違った。それは美川。
心の中でツッコミながら開き直り、小林某のくねくねした動きを真似していると余計に笑われた。ダンブルドアも満足そうにヒゲを揺らしている。今日のパーティーはずっとこれを着ておこう。
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