親世代七年生〜その後

□七話
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休暇も明け、今度はもうすぐイースター休暇だ、という時期に差し掛かっていた。あともう少しで卒業だ。
「えー、魔法省官僚の選出は、選挙権を持った魔法使いと魔女の投票により…」
ビンズは教科書に書かれていることをそのまま読み上げるだけで、特に黒板を使うことがないので楽ではあるが、話を聞くだけなので眠い。
これが終わればもうすぐ放課後だ、と、ぼんやり考えなら頬杖をつき、半分眠っている状態でビンズの聞いていると、背中に何かが当たり、地面に落ちた音がした。
「………」
地面に落ちたメモを拾い上げ、中身に目を通した。そこには話がある、と書かれていた。見たことがない筆跡だが、素っ気ないほど簡潔な言葉なのである程度予想がつく。
背後をちらりと振り返った。すぐそこにはスネイプがおり、こちらに一瞬だけ視線を送ると、教科書へ視線を戻した。錬金術の件やレギュラスの件も終わった今、何を話したいのか非常に気になる。一体なんの用だろう?
メモを丸めてポケットに入れていると、テーブルを一つ隔てた、斜め前の席にいるリーマスが、体を軽く捻って丸い物をこちらへ投げてきた。
私の肩に当たり、跳ね返ってテーブルの前に落ちてしまったので、こそこそと魔法でそれを拾い上げ、中を開いて確認した。この後話がしたい、と、似たような言葉が書いてあった。
リーマスはちらりとこちらを確認すると、よろしく、といった風に、右手をひらりと肩の位置に上げた。
「…であり、魔法法務部の管轄になる。しかしながら例外がいくつもあり…」
なんとなくスネイプのことは伏せ、いそいそと断りの手紙を書き、小さく丸めてリーマスへと投げた。リーマスが受け取り、メモに目を通したのが見える。
教科書に視線を落としながら心の中でも謝っていると、またリーマスの方向からメモが飛んできた。
今度は“君の大親友である僕よりも、優先する用事って何?”と、書かれていた。
リーマスは少し拗ねてしまったようだ。リーマスが大親友であることは認めるが、私としては顔を合わせる機会の少ないスネイプの話を聞きたい。
再度、謝罪の手紙を投げた。リーマスは手紙を開くと、わざとらしく眉を寄せて睨んできた。
私は手を擦り合わせ、口をパクパクと動かして申し訳なさをアピールした。それを見たリーマスは前を向いた。
余計に拗ねてないといいのだが。
それにしても、スネイプが話したいこととは、一体なんだろう?魔法薬に関することか、またもや錬金術に関することか。
「…の強制力は、事例により異なり、当てはまった場合…」
それにしても、二人が私に対して恋愛感情なんてもっていないことはわかっているが、二人の男子に取り合いをされる構図は、まるで少女漫画の主人公だ。二次元のような展開に、少し胸が踊る。
ここにいるというだけでも、充分二次元の展開ではあるが、ここの生活に慣れた今では、当初のようなワクワク感はない。見るもの聞くもの全てに心躍らせていた、今よりも遙かに純粋な、昔の自分が懐かしい。
「…したがって、魔法法務部の管轄であっても、即座に審議会の召集がかかる場合もあり…」
ビンズの話に耳を傾けながら、大あくびをして目を閉じた。
思えば、今までいろいろなことがあった。右も左もわからず、ダイアゴン横丁を彷徨っていたことに始まり、ルーピンに勉強を教わったり、ダンブルドアやスネイプと日本にある実家へ行ったり、ジニーの家に遊びに行ったり、神秘部で戦ったり。
たくさんいろいろなことをしたし、してもらったりした。あの頃のみんなにはもう会えないし、自分自身変わってしまったので、これから年を重ねても以前のように純粋な思いで接することはできない。
これから先のことが心配で、ヴォルデモートを倒す…つまり殺す方法を考えない日はないからだ。ヴォルデモートと戦うということは、その配下たちとも戦わなければならない。なのでそのために相手側を騙して罠にかけ、情報収集しなければならない。
もはや魔法だ、ホグワーツだ、と無邪気に喜んでいた時期は過ぎ去った。騎士団を構成する一人として、ダンブルドアの元で責任ある行動を心がけなければならない。
そう考えると、私は年齢や学歴は関係なしに、立場的に大人なのだろう。ジェームズたち以外の、動向がわかりにくい、名前だけで記述がない騎士団全員を助け出すことは難しい。
ダンブルドアは当然、未来を知る私に完璧を求めるだろう。
「………」
いや、むしろ、私はそこまで期待された存在だろうか?いつかのスネイプが言っていたように、未来を知っているからといって奢ってはいないだろうか?
「…は、いかなる理由があろうと買収などの不正行為は許されない。もし不正行為が…」
そこで、本日最後の鐘が鳴った。
みんなは瞬時に覚醒し、ビンズの言葉を待たずして教科書をしまい、席を立った。私はというと、ビンズに質問があるから先に行って、とエイダに言い、のろのろと片付けをしながら、背後の話し声に耳をそばだてていた。
背後でスネイプが、友人二人と何か話しているのが聞こえる。やがてその話し声が聞こえなくなり、自分たち二人以外の生徒はいなくなった。
スネイプは室内を確認すると魔法で教室の扉を閉め、すぐに話を切り出した。
「最近、魔法の開発が行き詰まってしまったので、なにかおもしろい魔法が知りたい。お前、日本出身なんだろう?ここのものとはひと味違う、なにか特殊な魔法を教えてくれ」
私は急過ぎる話題に困り、視線を下へ向けて考え込んだ。
しばらくして羊皮紙とインクを取り出し、杖を筆に変化させながら言った。
「日本の魔法っていうのは、占いとか悪霊、物の怪…ここでいう悪さする魔法生物を祓うための儀式が主で、魔法っていえるような呪文はあんまりない。雲に乗って移動したりだとか、紙に文字書いて声が出るようにしたりだとか聞いたことあるけど、方法ははっきりしてない。でも、一つだけ私でもできるやつがあるから、それ見せるよ」
話しながら書き終わった私は筆を元の杖の状態に戻し、梵字を書いた紙に向けて言葉を発した。
「オーン」
必要の部屋で、ヴォルデモートを倒す方法を探していたときの副産物だ。
紙はみるみるうちに変化を始め、やがて私と同じ容姿の式神が、テーブルの上に姿を現した。
「式神っていうんだ。お使いに行かせたり、身代わりにする時に使える」
「ほう」
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