親世代七年生〜その後

□八話
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私は着ている私服に魔法をかけ、深い赤色のドレスに変化させた。
九尾の狐の尾が入っているこの杖のおかげで、変身術関連の魔法は群を抜いてクオリティが高く、思い通りに変化したドレスを鏡で確認しながら心の中で自画自賛した。
イースター休暇最終日の今日行われるダンスパーティーは、陽が落ちてから行われる。窓の外は、すでに陽が傾いてきていた。
以前、神秘部に行く際にもらった首飾りをいじりながら、ぼうっと鏡の中の自分を見つめた。数年前と同じ顔。変わらない。
最近は卒業が近づいているせいか、時間の流ればかり気にしてしまう。
これから何が起こるのか、不安と期待が半々だ。
「もうそろそろ行こう」
同じくドレスアップしたエイダに声をかけられて我に返った。まだ魔法をかけていなかった靴を慌てて変化させ、エイダの後に続いた。



ダンスパーティーは大広間から玄関ホールにかけて開かれる。参加は任意だが、ほぼ全校生徒であろう人数がそこかしこに溢れていた。
大広間の教員席の辺りでは演奏者たちが準備をしており、各々楽器の調整をしていた。
「本格的ね」
「だねー」
二人でしげしげと眺めていると、エイダが声をかけられた。
「やあ」
「こんばんわ。…じゃあね」
どうやらエイダのパートナーだったようだ。ひとりぼっちになってしまったので壁側に寄り、ぼんやりと辺りを見回す。すると、ジェームズ四人組が入ってくるのが見えた。
ジェームズの横にはリリーがいた。
それを見て、これから二人が付き合い始めることを思い出し、少し気持ちが沈んだ。
自分が気にすることではないとわかってはいても、どうしてもスネイプの背中がちらつく。
「こんばんわ」
「…あ、こんばんわ」
聞き覚えのある女の子の声がして顔を向けると、いつの間にか近くには腕を組んだレギュラスとテスタの二人が立っていた。
壁にもたれていた体を直立にし、久しぶりに顔を合わせるレギュラスとテスタに軽く頭を下げた。
何か言いたそうにしているレギュラスと、そのレギュラスを見上げながら、触れている右肩でレギュラスの体を軽く押して何かを促した、相変わらず無表情なテスタ。
微妙な空気に戸惑いつつ二人の顔を交互に見ていると、レギュラスが喉仏を上下させてから言った。
「…今度の試合、楽しみにしています」
すると、テスタがまたもや肩でレギュラスを押し、視線で何かを訴えている。私に何か言いたいことがあるようだが、レギュラスは拒んでいるようだ。
やがてテスタは痺れを切らしたのか、レギュラスから少し体を離して言った。
「あれから呪いの方はかけられていませんの?」
「あ、はい。おかげさまで」
「なら良かった。あと、クィディッチのキャプテン、どうして引き受けましたの?」
それは前にレギュラスに話したはずだったが、聞いていないのだろうか。
疑問に思いながらも、以前と同じ理由を口にした。テスタは「そうなの」と、興味なさげに素っ気なく返すと、三度レギュラスを見上げた。
レギュラスは気まずそうに押し黙っている。
「………」
何度目かの二人のアイコンタクトを観察するも、話が見えてこない。一体なんなのか気になっていると、横から見覚えのあるシルエットが現れた。
「おや。こんにちは」
ルシウス卿とその妻、ナルシッサがいた。
二人の登場に驚いていると、レギュラスとテスタが慣れた様子で挨拶を返したので私もそれに習った。
ルシウスは私にも微笑みを返すと、二人と親しげに話し始めた。
「二人とも、夏以来だね。元気にしていたか?」
「はい。本日は本校でダンスパーティーを開催していただき、誠にありがとうございます」
ルシウスは微笑みながら、畏るレギュラスを親愛を込めた眼差しで見つめた。
「そのような堅い謝辞は要らない。このダンスパーティーは私たちや生徒たちにとって、良い社交の機会になるだろう。発案者の君には、未来の妻と共に一番楽しんでもらいたい」
「はい」
レギュラスとテスタは顔を見合わせ、微笑み合った。その背後で緊張した表情のまま居る私にも、ルシウスの視線が投げかけられた。
「して、彼女は?」
「あ…紹介が遅くなって申し訳ございません。こちらは…」
途端に言葉を濁すレギュラスをよそに、テスタが言葉を引き継いだ。
「レギュラスの話でご存知の、ナツキ・ムラカミでございます」
「よろしくお願いします…」
「君が噂の」
軽く頭を下げ、私を値踏みするルシウスの目を反らさずに見つめ返す。
そこへ別の人影がふらりと現れた。
「こんにちは」
燕尾服のような服を着たスネイプだった。スネイプはいつもよりはっきりした声で、ルシウスとナルシッサへ挨拶した。
ルシウスらは和やかに挨拶を交わすと、再び私へ視線を向けて言った。
「君の話はここにいる二人から聞いているよ。ここへ来た当初は記憶がなかったが、徐々に戻ってきたことも」
「はい。おかげさまで…」
「レギュラスが度々お世話になってることもね」
「いやぁ、お世話というほどては…」
向こうに私の来歴や噂を知られていることは予想していたが、ルシウスに直接声をかけられることまでは想定していなかった。緊張で視線があちこちに動きそうになるのを堪え、ルシウスの目を見つめ返す。
「しかし、その記憶は正しいのだろうか?本などで読んだ話や写真を脳が勝手に構築した、という可能性はないかね?」
「いえ…」
そんなことはないと言いかけたが、ここでルシウスに好印象を与えておけば、いつかまた思いがけず出会った時話がしやすくなるだろう。
「まあ、その可能性もありますね。記憶には家の中やその他の建物の記憶がありますが、実際に確認したことはありません。そこに至る道もまた記憶にないので」
嘘も方便。汚いやり方だが、ルシウスをまるっきり敵に回すよりは幾分かマシだ。
その機転あってか、ルシウスはにこやかな表情を崩さずに言った。
「私は日本の魔法使いとは交流がないので、日本の文化や学問に関して知識が乏しい。いつか全て思い出せたら、話を聞かせてもらえるかね?」
「はい。喜んで」
「君の記憶が戻ることを、心待ちにしているよ」
ルシウスは言い終わると、ちらりと舞台側を見た。視線の先にはダンブルドアや、その他魔法省の役人らしき人々が顔を寄せ合っていた。
「そろそろ始まるようだ。私は開会の挨拶を任されているので、これで失礼させてもらうよ。では、またあとで」
優雅に去っていくマルフォイ夫妻を見送った。
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