親世代七年生〜その後

□九話
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ダンスパーティーから数日経った。
テスタに話しかける機会がないまま、明日は休日でホグズミードに行けるという日の浴場でお湯に浸かっていると、テスタが私から一人分のスペースを空けて、湯船に入ってきた。
向こうから挨拶され、こちらも返した。
周囲に気を配り、他に湯船に浸かっていた女子たちがシャワーへ向かったところでここぞとばかりに声量を絞って話しかけた。
「あの、呪いをかけてきた相手を探そうとしてるんですけど、スネイプにあなたが助けてくれるかもって勧めてきたんです。いきなりですみませんが、なにか手がかりがあれば、教えてください」
テスタは表情を崩さず、少しこちらへ間合いを詰めた。
「手がかりどころか、犯人を知ってるわ」
テスタの返答に、さして驚きはしなかった。占いが得意なら私が話したがっていることや、質問の内容まで些細に占うことも可能だからだ。
相手も私の反応が読めていたらしく、すぐに顔を寄せて犯人の名を告げた。
テスタの口から、聞き覚えのある名が飛び出した。
その名前の人物を思い浮かべ、自分の顔見知りの犯行という仮定は正しかったと心の中で納得した。
そしてテスタは、背後で水を滴らせながら遠ざかる足音が消えるのを確認した後、正面を向いて独り言のように話し始めた。
「私は魔法使いと吸血鬼のハーフなので、通常の魔法使いと違って魔力の流れが見えます。通常の魔法使いと違うということは、私にとって誇りです。吸血鬼は人狼と同じく、忌み嫌われていようと人狼のように我をなくしてしまうほど凶暴ではございませんし、杖なしでの魔法の使用もできる優れた種族です」
私は頭の端に、リーマスを思い浮かべながら頷いた。
「人間の血は必要な時、必要な分もらうだけ。むやみやたらに仲間を増やしたりなど致しません。それをいつか周知してもらい吸血鬼の地位と覇権を取り戻すため、私は上へと這い上がらなければなりません。かのグリデンバルドに賛同した吸血鬼もいたせいで、風当たりは以前より厳しく、女である私にはさらに強い」
地位と覇権を取り戻すということは、魔法省で高い地位になることを目的としているということだろう。
差別の片鱗を語られながらテスタの横顔を見つめる。
「私たち吸血鬼は、まるで魔法生物扱い。ですが自分の身を嘆いて生きている間ずっと耐えるなんて逃げを打つより戦うべきだと志し、ダンブルドア直々の来訪によりここへ入学いたしました。学校へ行くことも許されなかった同胞に比べ、私はなんと幸せ者でしょう」
テスタはこちらを向き、今までで一番の笑顔を見せた。
「このことはご内密に」
「はい」
「さもなくば…」
テスタが整った顔を息がかかるほど近づけ、唇を薄っすらと開き、鋭利に尖った牙を見せた。





昨日のテスタの情報を元に計画を決行しようと、朝食の時間にわざとらしく「あ!インクがない!」と叫び、話すには大きい声でホグズミードに行くと言った。
そしてついて行くと言ってくれたエイダやクロエ、二人がほとんど一緒につるんでいるその他の友達も引き連れ、一緒にホグズミードへ出かけた。
先にインクを買っておき、喫茶店に入りって時間稼ぎのためにおしゃべりをし、トイレだと言って席を立った。
そしてそこで式神を放ち入れ替わった。私は目くらましの呪文をかけ、気づかれないよう外に出て木陰で待ち伏せた。
きっと犯人は人通りが多い場所を好んで呪ってくるはず。その瞬間を自分の目で確認した後、タイミングを見計らって犯人に話しかけ、理由を問いただす。
上手くいくかはわからないが、罠にかからなければまた別の罠を仕掛けるだけだ。
こうしてみると計画的な分、私の方が悪い奴のように思えてくる。
それからどれくらい時間がたったかわからないが、やっと喫茶店から私の式神を含めた一行が出てきた。
私は木陰からその瞬間を逃すまいと目を凝らし、周囲を見回した。
やがて一人の人物が、杖を体の陰に隠しつつ、式神へ向けた。
そして、向けられた式神は呪いに耐えきれず、音を立てて弾け飛んだ。急な出来事に周囲は騒然となり、村人を巻き込んで拡大していった。
あまりにも周りが騒いでいるため、ここで顔を出さなければ明日の新聞のネタの一部になってしまうと考え、急いで目くらましを解いて姿を見せた。
「ヤッホー!私は大丈夫でーす!」
目の前の出来事に驚いている人々は、目を丸くして私に注目している。その中で、クロエが真っ先に食ってかかってきた。
「あ、あ、あんたね!びっくりしたじゃないの〜!!」
怒り百パーセントのクロエに続いて、半泣き状態のエイダも声を上げた。
「ほんとよ!まさか、死喰い人がきたのかもって…もう…びっくりして…」
言い終わると泣き出してしまった。エイダには本当にすまないと思うが、こうしなければ特定できなかったのだから許してほしい。
「ゴメンね!また呪いかけられるかもって思って、魔法で身代わり作ってたんだ。みなさんすみませーん!」
四方八方にいる村人たちにも頭を深く下げて謝ると、村人たちは迷惑そうな顔をしてその場から離れて行った。
「もぉ〜。だったら一言言いなさいよー」
「いやぁ、どっから漏れるかわからなかったからさ。…でもまあ」
先ほど式神へ杖を向けていた人物にしっかり聞こえるよう、言い放った。
「一発で釣れたからよかったよ」



やがて夜が来た。エイダやクロエに怒られはしたが、三度目の被害を防ぐためだったことを説明し、納得してもらえた。そのまま夕食を終え、寮へ帰る前にさりげなくその人物へ声をかけた。
「ゴメン、ちょっと聞きたいことあるんだけどいい?」
「お?ナツキからミリアに話しかけるなんて初めてじゃん?」
エイダやクロエが度々名を呼んでいたので、名前はわかる。
他にわかることといえば、以前魔法生物学でサラマンダーを扱った日、本気で癒者になるのか、と尋ねてきた人物だということだけだ。
「まあね」
それだけ言いミリアに目配せすると、ミリアは動じる素ぶりもなく、みんなに笑顔でひと声かけて席を立った。
こうなればもう観念しただろうと、臆することなく背後に呪いをかけた張本人のミリアを伴い、大広間を出て少し離れた場所で立ち止まった。
ミリアはみんなに見せていた笑顔を引っ込め、口を真一文字にして真正面に立った。
誰かを問い詰めるなんて初めての経験に緊張しながら、相手の目を見て話しはじめた。
「別に先生に突き出すとかじゃなくて、なんで私を呪ったのか知りたい」
ミリアはふっと笑い、腕を組んで口を開いた。
「私もあなたと同じで、癒者になるために勉強してる。あなたにかけた呪いの反対呪文、私なら即座に解除できる」
「………」
私は悶えるばかりで、痛みと恐怖で冷静に考えられず、なすがままだったことを振り返り、言葉に窮した。
「私の言いたいこと、わかる?」
「…私より、あなたの方が癒者に関しての知識も腕も上ってこと?」
「言いたいことはそれだけじゃないわ」
ミリアは少し間を置き、真剣な面持ちで内に溜め込んでいた想いを吐き出した。
「あなた、癒者には向いてない。魔法薬学の授業で先生の話し聞かないで倒れたし、癒者になるって言ってたくせにいざ呪いを目の前にしたらなにもできなかったし、そもそも安定してるからって理由でなれる、易しい職業なんかじゃない」
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