親世代七年生〜その後

□一○話
1ページ/2ページ






ミリアと話した次の日の放課後、約束通りジェームズからニンバスとバットを受け取った私は、ほくほく顔でチームメンバーを談話室の隅に集め、ニンバスとバット二本を見せびらかした。
「じゃん!なんと、ジェームズ・ポッターがニンバスとバットを貸してくれました!イェーイ!」
メンバーだけでなく、周囲からも感嘆の声が上がった。
鼻高々でいい気分である。作戦だけでは心もとなかったが、ここでやっと優勝への希望が見えてきた。
「わぁー!良かったですー」
「本当にね!じゃあ、これアンナに」
そう言ってニンバスを差し出すと、アンナは一瞬目を丸くしたかと思うと、元に戻ってから衝撃的なことを口にした。
「言い忘れてたんですけど、私クリスマス休暇中に、入学祝いだってお爺ちゃんお婆ちゃんからニンバス買ってもらったんです!」
「ちょ!」
「えぇ〜!」
クロエと二人してすぐに知らせてくれなかったことに対して批難の声を上げたが、すぐ後で喜びの声に変えた。
「じゃあ、ニンバス二本じゃん?!コレ勝てるかも!」
「だね!でもさ、誰が乗るの?シーカー以外はそこまで必要ないよね」
確かにシーカー以外はそこまで必要ではないが、これなら以前から考えていた、攻撃に特化した陣形が使えるかもしれない。
私は嬉々として、メンバーたちに顔を寄せるよう指示し、勝率を高める作戦を提案した。
「ニンバスは、キーシャに乗ってもらう」
「なんでですか?」
本人ではなく、アンナが質問してきた。より声をひそめて言った。
「チェイサーみたいに、得点バンバン取ってほしい。大差つければスニッチ取られても勝てる」
「そっか。ニンバスならゴール前に戻るのもソッコーだもんね」
「でもそんなに差つけられるかな…」
と、エイダ。
「けど、やれないことはないじゃん。試合中何が起こるかわからない。下手したら…」
そこで言いかけてやめた。アンナが再起不能になる可能性がある、などと、不安材料をこの場で口にすることははばかられる。
「まあとにかくキーシャ、いい?」
「はい。やらせていただきます」
「あとは…」
他にもあれこれと指示し、全員の意見をまとめて解散した。
キャプテンとして、そしてクィディッチ選手として本当の最後を迎える試合当日が、今から楽しみでならない。
今年の優勝杯は、レイヴンクローが戴く。
私は決意を胸に、もう二度と使うことがないと思っていた必要の部屋へ、借りたバットを持ち込んで一人練習に励んだ。




そして待ちに待った試合当日。
チームメンバーと作戦の最終確認をしながら競技場へ向かう。
「スニッチ見つけた動きし始めたら、打つときどっせいって叫ぶ」
私の後にキーシャが続いた。
「合図がしたら、私はゴールもクァッフルも放っておく」
今度はクロエが。
「私たちは前と同じようにできるだけ三人で固まる」
次にエイダが。
「固まりながらスピードを少し落として、クァッフルをパスする回数を増やして時間を稼ぐ」
ダリスも。
「クァッフルを奪われても、また同じように時間を稼いで得点のチャンスを奪う」
そしてソニア。
「ブラッジャーはできるだけこちら側でキープ…」
最後にアンナが。
「私はスニッチをキャッチ!」
言うだけなら簡単だ。対戦中思い通りに動けはしない。これは一番うまく試合が進んでいる場合のプランだ。
最悪な状況に陥った場合のプランは、他に考えてある。
最悪な状況とは、チームメンバーの一人が欠けてしまうことだ。アンナがやられたなら最悪も最悪、むしろ試合終了も当然だが、他のメンバーならまだ続行可能なので、その際にタイムを入れてキーシャのニンバスと私の箒を取り替えるというものだ。
取り替えた後は、ニンバスの機動力とブラッジャーの跳ね返しで向こうにも同じように欠員を出させる。そしてあわよくば、向こうのシーカーの妨害も行う。
だがそれさえも計画通り行えるかは微妙なところだ。しかも、ルールを破る可能性がある。
なぜ断言できないのかというと、クィディッチには七百もの反則例があるので、いちいち自分の知りたい項目を確認してられなかったからだ。
ほとんどが魔法に関する反則なら、魔法に関しない反則を別に出せば良いのにと、心の底から思う。
先頭に立ち、選手控え室への階段を上る。これが最後の試合なので気合いを入れて中に入った。
「あー来た来た!」
そこには三年ぶりのカルナの姿と、去年のコンパートメント以来のエドワードの姿があり、驚きと喜びの声を上げた。
「うわぁ!お久しぶりです!」
「エイダからキャプテンになったって聞いてたから、今日は絶対見に来ようって思ってたんだ。また決勝戦なんてやるじゃん!」
カルナに背中を久しぶりにバシバシ叩かれ、少しよろめきながらエドワードにも挨拶した。
「エドワードもお久しぶりです。あれから大丈夫でした?」
実家と両親が死喰い人による襲撃を受けたエドワードは、相変わらずの涼しい顔で返答した。
「はい。あれからは何事もなく。全く傍迷惑な奴らですよ。さっさと壊滅してくれないものですかね〜」
相変わらず笑顔で不穏なことを言う。同意を笑い顏に込めて返した。
カルナが開始まであとどれくらいかかるか、幕の向こうにあるフィールドを確認してこちらへ顔を向けた。
「さてキャプテン、今日はどんな戦法で行くのかな?」
二人に大雑把に作戦を説明した。
「現状、それが一番でしょうね」
「向こうのシーカーは?」
「アンナと同じくらいの身長で、同じくニンバスに乗っているらしいです」
「さっすがボンボン揃いのスリザリン。…ニンバスかぁ…」
そこへエドワードが茶化すように言った。
「もうクリーンスイープの時代は終焉を迎えておりますねぇ〜」
「う、うるさい!」
反応を見る限り、カルナが就職した箒会社というのはクリーンスイープの会社なのだろう。
残念ながらエドワードの言う通り、もうすぐクリーンスイープが台頭していた時代は終わり、ニンバスにとって代わる。
倒産とまではいかないものの、それなりに厳しい経営状況になるだろう。
真実を伝えられず苦笑いしていると、カルナは仕切り直して言った。
「シーカー的に互角なら、もうそのまま賭けに出るしかないよね。シーカーに誰も付かないのはちょっと怖いけど」
「私は全然大丈夫でーす!」
「…だそうです」
二人はアンナの元気な声で顔を見合わせ、やがて何度か頷いた。
ワァァァ…!
カルナがまた幕をめくり、フィールドを確認して言った。
「向こうが出てきたっぽいね」
「それでは私たちはこれで。貴賓席から応援しております」
「はい。頑張ります」
メンバー全員でOB二人を見送り、出る前にひと言言った。
「みんな、落とされそうになったら全然逃げていいからね」
そして箒に跨り、フィールドへ飛び出した。
レイヴンクローの観客席にいる、ミリアを含んだエイダの友達、それからグリフィンドールの観客席の四人組と、感謝を込めたハイタッチをしてから整列した。
スリザリンのキャプテンの不敵な笑いを真正面で見据えながら、位置についた。
「さあ、スリザリン対レイヴンクローの試合が、今始まろうとしています!今回は両者のシーカーは、最新型のニンバスに乗っております!黒い柄がその証拠だぁ!」
そこでふと、相手チームの柄の色を確認した。黒い柄は、シーカーの他に二つ。こちらより一本多い。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ