親世代五年生

□一○話
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「では、始めよう」
ダンブルドアがテーブルに手をかざすと豪華な晩餐が現れた。七面鳥やクリスマスプティング、その他もろもろの英国でお馴染みの料理。感慨深げにこれを見るのも六年目か、と、重くなった腕を動かして自分の皿に盛りつけた。
「脱がないのですか?」
「ああ…なんかいいかなって。あったかいし」
重いけど暖かい。これなら外に出ても平気そうだ。
切り分けられた七面鳥をレタスに巻いて食べまくり、お腹を膨らませた。
食後のデザートも制覇し、ひと息ついたところでエドワードに勘づかれないよう、地面に置いてある鞄に杖を向け、中からスネイプへのクリスマスプレゼントを取り出した。杖を振ってスネイプの足元へスライドさせると、スネイプは足に何かがぶつかった感触で動かしていた口をピタリと止めて下を見た。
そして見覚えのある、薬問屋の包みを見つけて膝に置き、顔を上げてこちらを見た。
ー来年もよろしく。あと、誕生日おめでとう。
私はテーブルの枠を掴んでいた手を小さく動かしてアピールし、エドワードに一言言って席を立った。


年が明け、スネイプと過ごしたクリスマス休暇はあっという間に過ぎ、OWL試験まであと四ヶ月という、遊んではいけない期間に突入した。
しかし土曜の今日、リーマスに話したいことがあると言われているので部屋に引きこもるわけにはいかず、シャツを何枚も重ねて着て、ダウンコートで体を温めてから部屋を出た。北風が日本とは比べものにならないくらい冷たい。北海道よりも北にあるであろうこの学校は、全体的に冷え切っている。外に出たらさらに厳しい寒さなのだろう。
震える手でマフラーを引っ張って口まで覆い隠し、リーマスと待ち合わせをしている正門へ来た。
そこにはリーマス以外に四人の女子がいた。毎度お馴染みのあの女子たちだ。歯をガチガチいわせながら挨拶した。
「おは、よーう。明けましてーおめでとーう。今年もーよろしくー」
「おめでとう。今年もよろしく」
リリーは顔面が痛くなるほど寒いというのにシャキッと挨拶した。慣れているのだろう。羨ましい。
ポケットに手を突っ込み、ガタガタ震えながら他の女子にも挨拶していると、リーマスが女子の輪から外れ、私の前に出てきた。
昨日は新年最初の登校日だったが、顔を合わせることがなかったのでリーマスにも挨拶する。
「明けましてー、おめでとーう」
「明けましておめでとう。それじゃあね」
リーマスが手を振って歩き出すと、リリーが引き止めた。
「私たちも一緒にいいかしか?」
リリーの背後からナンシーが見てる。めっちゃ見てる。
これは断れないぞ、と思っていると、リーマスが「すまないけど」と謝った。ナンシーはさぞかし残念だろう。
「今日は彼女と二人で行こうって決めてたんだ」
誤解されないよう言葉を繋いだ。
「友達同士、今回はジェームズたち抜きで」
「そうなの。残念ね」
ナンシー、こっち見ないで…!どうしよう、後が怖い。寒さで鈍った思考の結果、妥協案を出してみることにした。
「じゃあ、あとで合流するのは?リーマスと話し終わってからさ。どう?」
決定権のあるリーマスを見上げると、無表情で視線を動かし、やがて了承してくれた。良かった。ナンシーの顔がさっきよりは明るくなった。
「じゃあ、途中まで一緒にいきましょう」
リリーは雪かきされ、幅は狭いが雪の上よりは歩きやすい石畳みの上を歩き出した。その後ろを歩きながら尋ねた。
「うん。リリーたちはどこに行くの?」
「買い物したあとは喫茶店に行こうと思ってるわ」
「じゃあ…」
私はリーマスを見上げ、どうする?と視線で問いかけると、リーマスは苛立ってるかのような口調で言った。
「それじゃあ、喫茶店で待ってるよ。…それまでに話し終わると思うから」
ちらりとこちらを見た顔に笑顔はなかった。もしかすると、了解を得ずに妥協案を出してしまったのを不満に思っているのだろうか。そう考えるとだんだんと不安になった。
おしゃべりは女子に任せ、口を閉ざして滑らないように気をつけながら歩いていると、やがてホグズミートが見えてきた。
一面の銀世界の中、雪かきをしている人々や子供、行商などが行き交っている。新年を迎えた村は、いつもより賑やかな雰囲気だ。
村につき、口々にまたあとで、と短く別れの挨拶を交わし、リーマスと喫茶店へ向かう。
二人っきりになったので、先ほどから不安の種になっていることを聞いてみることにした。
「勝手にみんな誘ったこと、怒ってたりする?」
「………まあね」
間が長い…!本気で怒ってる。八方美人がよくなかったと反省し、小さく「ごめん」と謝った。
リーマスは恐縮した様子の私を歩きながら見下ろし、前に向き直って感情を隠すことなく言った。
「二人でゆっくり話がしたかった。大事な話だって言ったじゃないか」
「申し訳ない…」
私だってリーマスだけの方が気が楽だ。しかしリーマスのことを好きなナンシーに誤解されるのは困る。いくら友達だと説明しても、理解してもらえないのだから、この手しかなかった。
鼻から長いため息を吐いた音が聞こえた。リーマスを怒らせるとは、なんて畏れ多いことをしてしまったんだと後悔していると、村に一軒しかない喫茶店に着いた。
リーマスはドアを開け、素っ気なく、中へ入るよう促した。
「ほら」
「ありがとう」
帰省のシーズンで旅行客が少なく、大人は雪かきに精を出しているせいか、店内は外と違ってがら空きだった。
奥にある座席に座って六人分確保し、鞄を背中と座席の間に挟んで向かい側に座ったリーマスの顔を見た。無表情が、怖い。まだ怒ってる。
「ごめん…勝手に誘って…」
「今度埋め合わせしてよね」
「うん。…今日、おごるよ」
「いや、いい」
リーマスがきっぱりと断ったすぐあと、ウェイトレスがオーダーを取りにきた。私とリーマスはホットココアを頼んだ。
リーマスはウェイトレスがいなくなってから頬杖をつき、半眼になりながら言った。
「今日は僕が誘ったんだから、僕がおごる。君は今度ね。来週いいかい?」
これは断れませんわー。イタズラを仕掛けた日以来のリーマスの怒った顔。
「うん。オッケー」
「よし。約束ね。あの部屋で夜更かしして寝過ごさないでよ?」
「大丈夫大丈夫」
寝過ごしたならさらに恐ろしい顔で、後日ネチネチと文句を言われるに違いない。想像するだけでも心臓が縮む。
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