親世代五年生

□一○話
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リーマスの目がいつもと同じ大きさに戻った時、ほかほかと湯気を出しているホットココアが運ばれてきた。コップを両手で握り、冷え切った指先を温める。中身を見つめながら、口をつけずに冷めるのを待っていると、リーマスが会話の口火を切った。
「今日、先に話したいのは、僕の持病のこと」
「うん」
「君は一定の周期があることに気がついているかい?」
リーマスが人狼であることを明かそうとしていることに気がつき、手元のコップから視線を上げた。親友まではいかない、付き合いの浅い一年そこらの友達に正体を告げようとしていることが、本人を前にしていても信じられなかった。
リーマスら質問に答えない私の顔を見つめ、確信を得た口ぶりで言った。
「気づいてるね」
否定するのも肯定するのも、どちらでも構わないが、リーマスがどういうつもりなのか知りたい。
リーマスはやっと笑顔を見せ、ココアに息を吹きかけて一口飲んだ。その間になぜ私がすでに知っていると断定したのか考え、リーマスとした話をいくつか思い出した。前にかがみ、声をひそめて尋ねる。
「どうして私に話そうと思ったの?」
「話してもいいかなって。なんとなくさ」
「なんとなくって…」
「君は人狼もそうだけど、他の種族にも理解があって嫌悪感を持っていないと言っていた。だから充分信用できる。ジェームズやシリウス、ピーターと同じくらい」
「…そりゃ、ありがとう…」
信用されるのは嬉しいけど、そこまで深い付き合いをする気ではなかった。ジェームズやシリウス、ピーターは相変わらず苦手だ。スネイプのことを好きでも嫌いでもない、いじめていても笑わないリーマスだけで、たまに話せるだけで良い。
リーマスは私が戸惑っていることに気づいたのか、不安げな顔をして口を閉ざした。人狼が嫌なわけではなく、素直に他三人が苦手だと伝えることにした。
「私、リーマス以外の三人が苦手なんだ。だから、他の三人にリーマスが人…持病のことを知ったって伝えて欲しくないんだけど、いいかな?」
「そうなの?…最近、仲良くなってきたと思ってたんだけど」
「そこらの女子よりはいいと思うけどね、やっぱり、苦手だなあ…」
どれだけ嫌おうとも、いじめはよくない。パンツまで脱がすなんて酷すぎる。それを笑いながらやってのけてしまう人は、正直嫌いだ。しかしジェームズやシリウスにも言い分があることもわかっているので、それ以上何も言わず少し冷めたココアを飲んだ。
リーマスは口をへの字に曲げて腕を組み、顔を覗き込むようにして前にかがんだ。
「どんなところが?言わないから」
「…主に、スネイプ関連」
「なるほど。……僕は?」
リーマスはむしろスネイプと友達になって欲しい。いつかの夏休み、そう願っていたことを思い出して口元を緩めた。ホグワーツを去ってからもスネイプのことをファーストネームで呼び続けるルーピンーリーマスなら、きっとー
「リーマスは全然。スネイプのこと笑わないから」
リーマスはスネイプの名前を聞いてふふ、と笑った。スネイプを中心に生きてると思われても仕方がない発言ではあるが、少々心外である。瞬時に言い訳を思いついて口にした。
「先生、スネイプと同じでいじめられてたんだ。だからジェームズたちのこと、あんまり好きになれない。…他はいいから、リーマスだけでいい」
「そうか…」
リーマスはスネイプがいじめられいる光景を思い出して表情を暗くした。元気づけようと話を続ける。
「いじめられてたけど、仲間の一人だけは笑わなかったし加わらなかった。見てるだけ。…先生はその人だけ殺したいほど嫌ってない。リーマスに似てるんだ、その人」
「へぇ」
人狼でかつ、いじめを傍で見ていた人物。このまま話してしまうと共通点があり過ぎてバレるだろうか。
私は話題を変えた。
「他には?」
「そのスネイプのこと。休暇中、君のとこのチェイサーのヴァレスから手紙が届いてね」
「へえー…」
エドワードがリーマスに手紙?嫌な予感。リーマスの探るような目つきがより一層不安をかきたてる。
「なんて書かれてた?」
「君がスネイプの部屋に出入りしていると」
「………」
実は気づいてたのか。言えや。リーマスじゃなく私に直接言えや。
内心穏やかでない私は、またもや怒りを滲ませているリーマスを見つめた。再三に渡る注意が無視され、憤りを隠そうとしないリーマスが静かに問い質した。
「部屋でなにしてたの?」
「癒者になるための勉強。スネイプは闇の魔術に詳しいから」
「それだけ?」
「それだけ。他にはなにもないよ。…前にリーマスにしたみたいなこととかは」
最後に付け足された言葉で渋面になり、怒りをたたえた瞳で睨まれた。忘れろと言われても忘れられないあの出来事。表沙汰にはできない分、インパクトは大きい。
「…僕、前に言ったよね?男は危険だって」
「スネイプは大丈夫」
「どうして言い切れる?」
「スネイプは……スネイプは、好きな人がいるから」
スネイプが今一番知られたくない事実。リーマスは当然食いついてきた。
「誰?」
「教えなーい。教えたら口きいてもらえないどころか、殺される。本当に殺される。だから好きな人がいるってことも内緒ね」
「殺意が芽生えるほどの秘密をどうして知ってるんだい?」
「秘密ー」
「またそれか。いい加減、秘密秘密ってやめてくれないか?」
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